Episode:72
「ヴェゼ・ジーヴルっ!」
瞬間、部屋一面に氷の破片が吹き荒れる。
「ちょっと、あなた何てこと――」
イオニア先輩の言葉が、途中で止まった。
首筋にぴたりと当てられた、ルーフェイアの太刀。
「あ、足が動かん。さすが美少女だ」
ウラグ先輩、また意味不明のこと言ってるし。
「えっと、あの、すみません。いま溶かします」
太刀を収めたルーフェイアがぱたぱた走り回って、凍りつかせた足を溶かして回った。
「あの、凍傷とか……平気です、よね?」
自分でやっといて、泣きそうなとこがカワイイ。
「あぁ、ウラグなら気にしなくていいわよ。むしろそのまま、凍らせといて頂戴」
「む、よく分かってるな。美少女にやられるなら俺は本望だ。わが人生に悔いなし!」
「――馬鹿」
ウラグ先輩の頭をまたファイルで殴ってから、イオニア先輩が向き直った。
「ルーフェイア、あなたの実力は分かったわ。作戦への参加を許可する。
以後、連絡があるまで待機なさい」
「はい」
うれしいはずなのに悲しそうな、複雑な表情でルーフェがうなずく。
その頭を、イオニア先輩が撫でた。
「ただの学年首席にしとくには、ちょっと惜しいわね。やっぱり食べようか」
「ダメですってば!」
思わず全力で否定。
この先輩じゃ、本気でやりかねないし。
「あら、本気にしたの?
遊んでたいとこだけど、そうも行かないわよ。すぐ詳細を、検討にかからないと」
この先輩の相手するの、マジで疲れるかも。
そこへ、別の先輩が飛び込んできた。
「騒々しいわね。何だって言うのよ」
「向こうが、期限を切ってきたそうですっ!」
「――!!」
指揮所内に緊張が走る。
「向こうが指定したのは、何時?」
「2300、今から3時間32分後です!」
どうやら犯人たちは、長期戦は望まないらしい。
「まったく、せっかちなのは嫌われるのに。けどこれじゃ、さっきの話を急がないとダメね。
ルーフェイア、正式に決まったら連絡するから、それまでロアと一緒に待機してなさい。いいわね?」
有無を言わさぬ口調に、けどこの子、うつむきながらも従わなかった。
「その、すみません、もし時間があるなら……中と連絡取ったり、したいんですけど……」
「――いいわ、許可する。その代わり、連絡は密にしてもらうわよ」
「はい」
状況が状況だから、妥当なセンで許可が出た。
「良かったね、ルーフェ。さ、早く行っといで」
この子をうながす。
ついてきたい気もするけど、どうせシュマー絡みの話だろうから、部外者は立ち入り禁止だろう。
なのにこの子、行こうとしなかった。
「――ロア先輩」
訴えるような表情。
「なに?」
「先輩に、していただきたいことがあるんですけど……いっしょに、来ていただけますか?」
「あ、うん。いいよ」
なんか意図があるんだろうし。
けどこの事件、ルーフェのおかげで案外早く片付くかもしれない。
――やっぱりシュマー、なのかな。
いざ戦闘となると、かけ離れた才能を見せるこの子に少し圧倒されながら、あたしは後をついて行った。