Episode:70
「ルーフェはたしかにちっちゃくて軽いけど、それでもたぶん、騎手と2人じゃバランス崩すんじゃないかなぁ」
そこへ、ルーフェの明快な答え。
「キエーグのベルトを使えば、出来ます」
「――!」
この子の言うとおりだった。
浮遊石の嵌まったキエーグのベルトは、人を浮かせるだけの力がある。危ないからやたらと浮かないように制限かかってるけど、それさえ外せばどこでも使えるはずだ。
それにこれなら、すぐに用意できる。この町のキエーグ場を片っ端から当たれば、十分な数が揃うはずだ。
「たしかにそれなら、行けるかも……。全員つけてれば、1羽で最低でも、3〜4人は運べるだろうし」
ものすごいアイディアに舌を巻く。さすが戦場育ちの学年主席だ。
けど、手放しじゃ賛成できなかった。
「でもねルーフェ、危ないよ? いつ何されるか、わかんないんだよ?」
「あの子たちは、もっと危ないんです!」
この子にしては珍しい、強い口調。
本気だ。
この子は――本気だ。
「分かった。だけど、まず先輩たちに相談してから。いいね?」
「はい」
このへんは素直だから、あっさり納得してくれる。
それからあたしは、ルーフェを連れてイオニア先輩の所へ行った。
――もっともいる場所がまだ指揮所だから、行くっては言わないかも。
「あらなによ、まだこんなところにいたの? そんなに不合格になりたい?」
「先輩……」
気を取り直して、大事なことを言う。
「この子が、方法を考えついたんです」
「方法? 役に立たない方法だったら、承知しないわよ」
「すみません……」
先輩の毒舌に、なんにも言わないうちからルーフェが謝っちゃうし。
「今謝ったって、しょうがないのよ。さっさと聞かせてもらえないかしら」
「ごめんなさい!」
すっかり萎縮しちゃってる。
「先輩、ダメですよ。この子すっかり、怯えちゃってるじゃないですか」
「あらそうね。あたしとしたことが、忘れてたわ。
――さ、子ネコちゃん、お姉さんに教えて頂戴」
「センパイ……」
それはアブないって。
だいいちルーフェ、後ず去っちゃって言えるような情況じゃないし。
「この子が、潜入するって言うんです。自分なら小児科の入院って偽って、紛れ込めるんじゃないかって」
「潜入? どうやって? 病院はあのとおりなのよ」
あたしと同じ疑問を、この先輩も返してくる。
「えっと、その、えっと……」
どうもルーフェ、先輩に気圧されたらしくて、上手く言葉が出てこない。
「怖くないって言ってるのに、なんでおびえるかしらね。
――じゃぁ、これでどぉ?」
さっきと同じように、イオニア先輩がルーフェを捕まえる。
「いい子ね。さ、お話聞かせてちょうだいね」
「……♪」
だからそれ、すごくアブない光景だってば。
けどルーフェはこれがいいみたいで、先輩の腕の中でうれしそうにしながら、話し始める。