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Episode:07

◇Rufeir

 ケンディクの街は穏やかだった。

 もっともこの街は年間を通して観光客で賑わうから、どの時期でも人通りはけっこう多い。


――あとで港で、海が見たいな。


 観光都市で景観のいい場所が多いこのケンディクで、あたしがいちばん気に入ってる場所だ。

 海は好きだった。

 港の桟橋の突端に座って潮騒を聞いていると、不思議と落ちつく。理由はわからないけど……抱かれているような気になって、とても安心だった。


 実を言えばゆっくりと海を見たのは、学院へ入学してからだ。

 もちろんその前も見たことがないわけじゃないけど、戦場から戦場へ渡り歩く途中でちょっと立ち寄る程度だったから、座りこんでながめているほどの時間は取れなかった。


「海の色はね、あんたの瞳と同じなのよ」

 そう母さんがよく言ってたけど、ケンディクへ来て初めてそれが本当だと知った。

 それに海は繋がってる。父さんや母さんがよくいるアヴァンの大陸にも、シュマーの本拠地がある大陸にも。


「ルーフェイア、何をしているのですか。遅れますよ」

「あ、はいっ!」

 船を降りたところで立ち止まっていたものだから、たちまちタシュア先輩に叱られる羽目になった。


――どうしてあたし、こうなんだろう?

 また悲しくなる。

 考えるだけなら後でもできたのに、今考えてるなんて……。


「泣く暇があるのなら、早く駅へ行きなさい。もう列車が着く時間ですよ」

「ごめんなさいっ!」

 こみ上げてきた涙をぬぐって、慌てて歩き出す。

 でも次の瞬間、あたしは思わず立ち止まった。


「どうした?」

「いえ、その……」

 シルファ先輩に上手く返せないまま、周囲を探る。


「なにをしているのです」

「いえ、今何か、気配が……」

「――? 何もないようですが」

 あたしと同じように戦場で育って、気配を捉えることが上手いタシュア先輩が、そう言う。


――気のせいだったのかな?

 確かに視線を感じたと思ったけど、勘違いだったのかもしれない。

 なによりもう、辺りにはなにもなかった。


「急ぎなさい。待たせるつもりですか?」

「すみません……」

「私に謝っても意味がありませんよ」

「………」

 もう、どうしていいか分からなくなる。


「ともかく駅まで行こう。イマドが待ってるかもしれないだろう?」

「あ、はい……」

 シルファ先輩にうながされて、あたしは歩き出した。

 連絡船が着く桟橋から駅までは、少し距離がある。


 初めてここへ来たのは、まだ一昨年の話だ。だけどその前と後とで、あたしの生活は言葉通り一変した。

 この穏やかなケンディクにいたら想像できないような――でもそういう場所で、あたしは育った。


――どっちが本当なんだろう?


 あの地獄が夢だったのか、それとも今が偽りなんだろうか。

 どちらも現実だとわかっていても、そう思わずにいられなかった。

 けどあたしは、いつかはあの場所に戻らなくちゃならなくて……。





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