Episode:69
「同時に上手く、中を殺れれば言うことナシなんだけどね」
「そんなこと出来れば、苦労しないわよ」
2人でため息をつく。
「ともかくあたし、待機場所へ戻るわ」
「あ、うん、頑張って」
エレニアも出て行く。
「さ、ルーフェ、あたしたちもどっか……場所移ろうか?」
まさかずっと指揮所にいるわけには、いかないだろうし。
けど、この子は動かなかった。
「ルーフェ、どしたの?」
「あの、あたし……」
普段はどっか儚げなこの子が、海色の瞳に強い光を見せる。
「あたしが、行きます」
「え?」
言ってる意味が分かんなくて、思わず聞き返した。
「行くって、どこへ?」
「あたしが、潜入します。あたしだったら――小児科の入院って言っても、通るはずですから」
「――あっ!」
確かにちっちゃいこの子なら、あたしたちと違って、簡単に子供たちに紛れ込めるだろう。
それに実力だってルーフェは、そこらの傭兵隊を遥かに上回る。
でも……。
「でも、どうやって? あのとおり、外からはそう簡単に入れないよ」
だからこそ、突入なわけだし。
けどルーフェが、しっかりした声で言った。
「屋上から懸垂降下なら、入れます」
「屋上から?」
一瞬、言葉に詰まる。
「たしかにそれ、常套手段だけど……でもあそこ、ほかに高い建物ないよ?」
そばにもっと高い建物があれば、そこから懸垂降下はよくやる。けどあの病院、あの地区でいちばん高い。だから下から登るのはアリでも、降りるのはできなかった。
でもルーフェは、あたしの想像なんか超えてた。
「巨鳥を使えば、出来ます」
強い瞳に、はっきりした声。
――勝算がある。
表情が、そう告げてる。
「わかった。聞かせてもらえるかな」
ヘタすればここの誰よりも、前線慣れしてるこの子だ。聞いて損はないはず。
ルーフェが話し始める。
「えっと、まず巨鳥はこういう状況なら、ケンディク基地からすぐ、借りられると思います」
「あー、たしかに」
巨鳥はいまでも空の主役。
たしかに陸は、炎石を利用した魔動機関で動く車両が、走竜に取って代わった。
けど空を飛ぶ乗り物は、まだ出来てない。ってのも浮遊石自体ははメジャーなんだけど、じつはかなりデリケートで、他の魔力石と一緒に使うとちゃんと浮力が出ない。だから軽量化に使うのがせいぜいで、大きな乗り物を浮かせるまでには至ってなかった。
そんなわけで今でも、軍はどこでも巨鳥部隊を備えてる。
「でもさ、借りたとしてどうすんの? 巨鳥ってば、1人乗せて飛ぶのが限界だよ」
この案が検討されなかったのは、これがいちばんの原因だ。
巨鳥には必ず、騎手が要る。けど屋上へ飛び降りちゃったら、騎手ナシになった巨鳥が、好き勝手にどっかへ飛び去っちゃうわけで。
かといって屋上にあんなものを、降ろして待機させとくわけにもいかない。