Episode:67
「あの……」
おずおずと前へ出てくる。
「――やっぱり、可愛いから食べてみようか」
「ダメですっ!!」
先輩ときたら、とんでもないこと言い出すし。
――もっとも当のルーフェは、なんのことだか分かってないんだけど。
きょとんとした表情で、首を傾げてるだけだ。
「かっわい〜♪ ほら、捕まえたっ」
「きゃ……」
ただなにしろこの子だから、逃げ出すわけでもなくて、そのまま抱かれてるし。
「いい子ねぇ。
さ、お姉さんにお話、聞かせてもらえるかしら」
「あ、はい」
傍目から見るとけっこう危険な気がするけど、ルーフェは知り合いのお姉さんに抱っこされた程度の認識らしい。
――それだって、かなりアブナイんだけど。
けど、嬉しそうなのは確かだ。
「えっと、その……」
「うんうん、それで?」
ちゃんと通じるように、話してるし。
「それで、タシュア先輩が倒れて、病院へ行って……」
「あのタシュアが? ふぅん、あいつ人形じゃなかったのね」
さすがこの先輩、とんでもないこと言う。
「まぁいいわ、それで?」
「それで、あたしが外へ行ってる間に……事件になったんですけど……」
ここまでは聞いてる。
けど次の言葉は、あたしをも驚かせることだった。
「そのあと、どうにか中と連絡取って――」
「ちょっと待ってルーフェ、今なんて言ったの?」
この子がうつむく。どうも、突っ込んでは訊かれたくないことらしい。
「……まぁいいや。
どうやってかはともかく、中と連絡は取れるわけね?」
「――はい」
安心したふうにルーフェがうなずく。
あたしもそれ以上は突っ込まなかった。だいいちどうせシュマー絡みだろうから、突っ込んだらもう2度と、情報提供してくれない可能性だってある。
一応確認のためにイオニア先輩に視線を向けると、無言でうなずいた。
――話わかるじゃない。
情報が真実で正確なら、出所は伏せといてもらえそうだ。
「中の様子、どうだったか分かる?」
「えっと……」
ルーフェが少し考える顔になった。どう報告しようかまとめてるんだろう。
「犯人の数は、まだ確認できてません。でも5名以上は間違いなさそうで、病棟の廊下で銃を持って見張ってるそうです」
さすが学年首席+戦場育ちなだけあって、報告が簡潔。
「そう。
――そうしたら、人質の状況は?」
「威嚇射撃はあったものの、現在死傷者はありません。看護士さんとお医者さんはナースステーション、患者さんはほとんどが病室に軟禁状態。
ただ、子供が……」
この子が少し言いよどんだ。良くない情報らしい。