Episode:66
「あ、こら、指揮官の特技にその態度はなんだ」
「話が違うでしょ。だいいちそんなの、威張るほどのことじゃないわ」
奥のほうから今度は、女子の先輩が出てきた。
短めにカットしてあるストレートの髪は、ブラウンの中にブロンドっぽいメッシュ?が混じった不思議な色。瞳の色はグレイ。
今の女子筆頭の、イオニア先輩だ。
けどこの先輩ときたら、その容姿なんかを遥かに上回る、圧倒的な存在感がある。
で、開いた唇からの一言は、めっちゃ強力だった。
「もっとも、それしか自慢するものがないなんて、可哀想だけど」
後ろのルーフェが、目をまんまるくして驚くのが分かったり。
――まぁねぇ。
この先輩の板につきまくったタカビーは、きっと学院イチだろうし。
でもこっちのウラグ先輩も、負けちゃいない。
「何を言うんだ。これ以上任務で役に立つ特技は、他にないぞ」
「馬鹿ね、相手が男だったらどうするの?」
「ヤローなんか見てた日にゃ、目が腐る」
「あなただって男じゃない」
「自分は見ないから、いいんだ」
漫才始まるし。
「なるほど、だから死なずに済んでるわけね。
まぁいいわ。ともかく向こうに行っててくれない? この子の相手があなたじゃ、あんまりにも可哀想だもの」
「何を言うんだ、女の子の相手なら、俺の右に出るやつは――」
「だからよ。
ちょっと誰か、この馬鹿を向こうへ連れてって頂戴」
指揮官じゃなさそうなのに、どうもここを仕切ってるのイオニア先輩らしい。すぐ他の上級傭兵の先輩が来て、ウラグ先輩のこと連行?してった。
「この人でなし〜! 俺を美少女から引き離すような性悪なことばっかしてると、そのうち――うぎゃっ★」
途中で言葉が途切れたのは、分厚いファイルがウラグ先輩の後頭部に命中したせい。
「まったく、うるさいったらありゃしない」
投げたのはもちろん、イオニア先輩だ。
「なんであんな馬鹿が、上級傭兵筆頭なのかしらね。こっちの品位まで疑われて困るったらないわ。
――それで、あなた何の用?」
先輩の、振り向きながら髪をかき上げるしぐさが、妙にサマになってる。
「ここへ候補生が入っちゃいけないこと、まさか知らないなんて言わないわよね? まぁ減点されたいっていうんなら、相談に乗ってもいいんだけど」
「許可は取りました。
実はこの子――ルーフェイアが、少し情報を持ってきたもんですから」
「そうなの?」
先輩があたしの後ろを覗き込む。
ルーフェが制服の裾を掴んで、また縮こまった。
「ふぅん、近くで見ても可愛いわね。
――ほら、いらっしゃい。怖くないから」
「先輩、それじゃネコですってば……」
何を間違えたんだかこの先輩、子ネコ呼び寄せるみたいに、少しかがんで手招きしてる。
「ほら、おいでおいで。うーん、エサがないとダメかしらね」
「………」
何かが激しく間違ってる。
けどこのままじゃ、この子も怖がって動きそうにないし。
「ルーフェ、大丈夫だよ。別に食べられたりしないから」
そう言ってあげると、ようやく安心したんだろう。あたしの後ろから、ルーフェがちょこっと姿を見せた。