Episode:63
「現在ユリアス政府から代表者が出て、犯人グループと交渉中との情報だが、難航しているようだ。
また政府はシエラ学院に、犯人グループの要求を飲む気はないと言って来ている。
この点から、投降がない場合は突入と思って欲しい」
――ま、これは普通だね。
他所じゃどうか知らないけど、学院じゃ「テロリストは皆殺し」が常識だし。
なにしろ一瞬が人質の生死を分けるかも知れないって言うのに、悠長に情けかけてるヒマなんかあるわけがない。
だいいち死にたくなかったら、こんなことしなきゃいいだけだ。
「突入に関しては、院内の詳しい状況が分からないため、まだ細かい具体策は出ていない。だが交渉がしばらく続くと予想されるので、その間に指示があるはずだ。
また7Fのため、包囲は困難だ。よって非常口及び階段からの突入が、採用される可能性が高い。
各自準備を怠らないように」
「了解」
みんなの声が綺麗に揃った。
それにしたって今回は、やたらいきなり。
なにせ上級傭兵候補生に集合がかかったのが夕方の話で、その場で「これから実地試験を行う」ってんだから。
ともかくここ数年で、これほどいきなり実地試験が決まったのは、今回が初めてだ。
「エレニアの方が絶対良かったよ。何日か前から実地試験の噂、あったじゃない?」
「そうだけど、仕方ないわよ」
「確かに仕方ないんだけどさ〜」
ヤだとか言って参加しなきゃ、上級傭兵になれないんだよね。
「ともかく頑張ってね。私もどうせ任務に行くなら、ロアとのほうがいいもの。
――あ、着いたみたいよ」
「あ〜あ。それじゃ、気合い入れて行こうかな?」
でも、気合いれる場がなかった。
「上級傭兵のみ情報収集に入る。候補生はこのまま、車内で待機しているように」
確かに作戦行動じゃ、待つのも仕事のうちだけど。
――だけど表にも出られないってのは、けっこうしんどいかも。
そうは言っても、ここで下手に命令違反したら合格どころじゃなくなる。
なにしろ去年の試験、あたしこれで落ちた。
もっともコトがコトだったから、後悔なんてさらさらしてないんだけど……。
「ロア、先に行くわね」
「いいなぁ、エレニアは。けど気を付けてよ」
「大丈夫、これでもれっきとした上級傭兵だもの。
じゃぁ、あとで現場でね」
エレニアたちが出てく。
あとに残ったのは、候補生があたしも含めて6名。しかも他は全部男子だから、話相手にもなりゃしない。
しばらくはそれでも大人しくしてたけど、こうなるとヒマでヒマでしょうがなかった。
――なんか見えないかな?
退屈しのぎに、小さい窓から外を覗いてみる。
外はもうほとんど暗くなってたけど、どこも投光器で照らされてるおかげで、けっこう視界は効いた。
って、あれ……?!
こっちへ向かってくるあのコ、何をどう見たってルーフェイアだ。