Episode:60
「あちらも了解したとのことです。
――今、接続が切れました。次回は1時間8分後になります」
半端なのは、きりのいい時間に合わせたせいだろう。
「わかった。ありがと」
「いえ……」
でもなぜか、彼女の様子がおかしい。
「あの、ケイカ――?」
また、悪いこと言っちゃったんだろうか。
「ごめんなさい、あたし……」
「ぐ、グレイス様、悪いのは私です。どうかお顔を上げてください」
「え、でも……」
なんだか話が噛み合わない。
悩んでいると、またドワルディが間に入ってくれた。
「ケイカは感激しているのですよ」
「え?」
あたし、感激されるほど凄いこと、しただろうか?
首をひねったけど、やっぱり分からなかった。
「まぁ、お気になさらずに。
それよりもグレイス様、この後はどうなさいますか?」
訊ねられて、あたしはまた考え込んだ。
「えっと……派遣された先輩たちは、そのうち来るのよね?」
「さようでございます」
だとすれば今できることは、たぶんひとつだ。
「――先輩たちがここへ来るまで、あたし、待つことにする」
「了解しました。
ではその間に、着替え等をお持ちしましょうか?」
「ありがと。
それと……予備の精霊.、持ってこられる?」
可能なら、イマドに届けるつもりだった。
タシュア先輩やシルファ先輩は自分の精霊を持っているだろうけど、イマドはそうじゃない。けどこういう現場では、精霊があるかないかでは、助かる率が大きく変わるのが普通だった。
「どのような精霊をお持ちしましょうか」
「えっと……」
起こりそうな状況を考えてみる。
ふつうなら威力が高い精霊を選ぶけど――今回は場所が病院だ。ヘタなものを使ったら、丸ごと巻き添えになる。
このあたりを思うと、破壊力に頼る場面は少なそうだ。
だとすれば……。
「防御関係に強いのって、ある?
物理攻撃と、あとできれば魔法も防げるのが……」
「ございますよ」
「うそ……」
自分の家のことながら、改めて驚いてしまった。
――まさかこのケンディクにまで持ち込めるほど、数があるなんて。
意外だけどこういう小回りが利く精霊は、種類が少ない。なのにそれを、こんな遠いケンディクまで持ってきているのだから、実家には間違いなく複数あるはずだ。
「シュマーって、そんなに凄かったんだ……」
「グレイス様がそれを仰られては、少々困りますが。
いずれにせよ時間をいただけますか? すぐにこちらへ持ってこさせますので」
「うん」
ドワルディが目配せして、ケイカがうなずく。
僅かな時間彼女の瞳が何も映さなくなって、今度はケンディクにいるロシュマーの誰かに連絡しているのだと分かった。
それからまた、あたしのほうへ視線が向く。