Episode:59
「ですが隣の病棟の子供たちが、人質にされて倉庫へ集められていると――」
「そんな!」
彼女の言葉を全部聞き終わる前に、あたしは悲鳴にも似た声をあげていた。
「小さい子と、犯人だけなの? 誰か看護士さんとかは、一緒にいないの?!」
また少し沈黙があってから、ケイカが答える。
「誰も他には、いないそうです」
「そんな……」
銃声を聞いたり武器を見せられただけで十分怖いだろうに、ひとりの大人もいないまま、その相手と一緒だなんて――!
もう、居ても立ってもいられなかった。
「あたし、行くわ!」
「どちらへでございますか?」
やけに冷静に、ドワルディが返す。
「だから、中へよ!」
「封鎖されておりますが」
「けど、入るくらいはどうにかなるわ。すぐに着替えを持ってきて!」
それでもドワルディは、引き下がらなかった。
「グレイス様、お待ちください」
言って、あたしの前へ立ちはだかるように移動する。
「どうか落ち着かれますように。
お友だちのこと等がご心配とは存じますが――いつものグレイス様でしたら、もう少し慎重に行動なさるかと」
「え……?」
――あたし、そんなに動転してた?
もう一度よく考えてみる。
対テロ作戦の時の鉄則は……?
「――ごめん。あたし、どうかしてたみたい」
「私こそ、出すぎた真似を致しました。どうぞお許しを。
それにお友だちが危険な目に遭われているのですから、気が逸るのも当然でございます」
「――ありがと」
慰めとは分かっても、少し気が軽くなる。
「グレイス様、お取り込み中申し訳ないのですが……」
「あ、ごめん」
こんどはケイカに話しかけられて、あたしはそっちを向いた。
「えっと、何?」
「先方が慣れていないせいか、接続がそろそろ限界です。何か、今のうちに訊いておくことはございますか?」
彼女の言葉に、急いで頭の中をさらう。
けど、犯人の配置なんかはすぐ分かんないだろうし……。
「とりあえず、いいと思う。
ただイマドが大丈夫なくらいで、次の連絡時間だけ決めてもらえると、いいんだけど……」
「了解です」
言って彼女が珍しく目を閉じた。それだけ接続が難しいんだろう。
これで、次で犯人の配置さえ訊ければ、かなり状況は――。
「あっ!」
大事なことに気が付いて、あたしは思わず声を出した。
びっくりしたみたいで、ケイカが目を開ける。
「グレイス様、どうなさいました?」
ドワルディも訊いてきたけど、そっちに答えてる時間はなかった。
「ごめんなさい、ケイカ。
あのね、急いでイマドに、犯人の配置だけ確かめといてって――」
「今、そのまま伝えました」
さすがに専任でやっているだけあって、早い。