Episode:58
「どうぞ、なんなりとお申し付けください。
このケイカ、命もグレイス様に捧げてお仕え申しております故」
「あの、それはいいから……」
だいいち、そこまでしてもらっても……。
そんなやりとりが可笑しかったのか、またドワルディが笑った。
「グレイス様がお優しい方だと、これで分かりましたか?」
「はい」
優しいかどうかはともかく、あたしはどうやら「怖い」と思われていたらしい。
――姉さんなら、分かるけど。
従姉のサリーア姉さんは、シュマーの男性陣さえ震え上がらせる辣腕家だけど、あたしにはとても真似できない。
ああなら、いいのに……。
姉さんならあたしと違って、シュマー家総領としての実力は十分だ。
「それでグレイス様、連絡をいつお取りになりますか?」
ため息をついているあたしへ、ドワルディがもとの話を持ちかけた。
「えっと……すぐ、できるの?」
彼の視線がちらりと、呼ばれた女性へ向く。
「問題ございません」
彼女がはっきりと答えた。
「そうしたら、やってみて……もらえる?」
「了解しました」
ケイカが目を閉じた。
時間だけが過ぎる。
「ダメ、なの……?」
「いえ、接続はできています。ただ応答が――今、ありました」
「ほんとに?!」
聞きたい。
無事なのかどうか、今どうしているのか――。
「ねぇどうなの? イマド、大丈夫なの?」
「今訊ねますので、少々お待ちいただけますか。
――無事で、先輩方と一緒の部屋にいらっしゃるとのことですが」
「そう、なんだ……」
ケイカの答えに、座り込みたくなるほどほっとした。
とりあえずはみんな無事で……。
彼女の視線が宙をさまよって、また何かをイマドに伝えているのが分かる。
その様子に、なぜかちくりと、胸が痛くなった。
あたしはイマドとこんなふうに話せない。
でも、彼女は――。
「グレイス様」
ケイカに呼ばれて、はっと我に返る。
「えっと、なに?」
どうしてあんな気持ちになったのか戸惑いながら、答えた。
「向こうから現状を教えて欲しいとのことですが、どうなさいますか?」
「全部……話してあげて」
いまさら隠しても仕方がないし、何より先輩たちも情報を知りたいだろう。
再びの沈黙。
頃合を見計らって、恐る恐る声をかける。
「あのね、中の細かい様子も……訊ける?」
「かしこまりました」
それほどは長くない無言の時間のあと、彼女があたしに視線を向けた。
「中は今のところ、平穏だそうです」
やり取りにかかる時間が短くなってきているのはたぶん、イマドが少しづつ慣れてきたんだろう。
ケイカは念話でのやり取りは専門だけど、イマドは周囲にそういう人がいなかったと言うから、あんまりやったことがないはずだ。
けどそんなことを考えていられたのも、次の言葉を聞くまでだった。