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Episode:57

「お気持ちは分かりますが――グレイス様、中ではたくさんの民間人や子供が、人質になっております。ここは彼らの生命を守るのが最優先かと。

 それに――」

 そこで彼は、一度言葉を切った。


「出来ることをしなかったがために誰かが犠牲になるというのは、ことの他後味の悪いものです。

 お友だちもそれは、望まないのではないでしょうか」

「………」


 確かに一理ある。

 あたしが連絡手段を持っていながら使わなくて、それで小さい子たちに何かあったら……イマドはもっと嫌な思いをするだろう。


「――わかった」

 何があっても、あの子たちが死ぬよりいい。


「専任の人、呼んで……もらえる?」

「かしこまりました」

 ドワルディが一礼する。


「ですがセーフハウスからここまで少々距離がありますので、10分程はご容赦ください」

「あ、うん、大丈夫よ」

 距離から考えたら、むしろ短いくらいだ。


 それにしても、状況はよくなかった。場所は建物の7階、人質は大多数が病院の入院患者さん。

 これじゃたぶん、閃光弾も催涙弾も使えないだろう。


――何か、いい方法は?

 あれこれと考え込む。

 そしてどのくらい経ったんだろう、声がかかった。


「グレイス様、遅くなりまして申し訳ございません。私めを、お呼びとのことでしたが……」

 初めて見る女性だった。


 年はたぶん、あたしより幾つか上なくらいだろう。ただシュマーの血を引く人間は、早く大人になる傾向があるから、この人ももう少し年上に見える。

 長く波打つ髪は綺麗な黒、肌も浅黒くて、南方の血が濃いらしかった。


「えっと……」

 名前も分からなくて、困ってドワルディの方を見る。

 彼がうなずいて、話を引き取ってくれた。


「先ほど話した専任のひとり、ケイカです」

 ケイカと呼ばれた女性が丁寧にあたしに頭を下げて、なんだかいたたまれなくなる。


「あの、そんなに……しないで」

「え?」

 あたしを見下ろす彼女の顔に、驚きが浮かんだ。


「その、だから……あたし、その……」

 上手く言えなくてまた困っていると、今度は彼女が慌てた表情になった。


「も、申し訳ございません、何かお気に――」

「あの、そうじゃなくて……」

 どうにもならなくて困り果てる。

 ドワルディがそれを見て、少し笑いながら間に入ってくれた。


「グレイス様は、そんなに恐縮せずとも良いと仰っているのですよ」

「こんな私どもに、そんなお言葉を――!」

 説明を聞いた彼女の表情が、もう一度驚きへ変わって、それからまた深く頭を下げる。







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