Episode:50
「武装は――いえ、外部への連絡手段はどうなっていますか」
さすがに兵装を訊きだすのは無理と思ったのか、タシュアが質問を途中で変える。
「連絡手段?
院内用の通話石はナースステーションにあるけど、見張られてるから使えないわ」
「魔視鏡はどうです?」
「最初に、止められちゃったわよ」
予想以上に相手に隙がない。
さすがのタシュアも、少し考え込むようなそぶりをみせる。
「――犯人側から、なにか要求はありましたか?」
「これといってないけど……向こうの病棟で、チビちゃんたちをデイルームに集めてるわね」
「デイルーム?」
耳なれない単語が出てきて、思わず聞き返す。
「あぁ、ごめんなさいね。各病棟にあるロビーみたいな場所を、そう言うのよ」
「あれか……」
そう説明されれば、心当たりがあった。確かナースステーションから見渡せる窓際に、ソファや魔視鏡が置かれた、そんな場所があったはずだ。
「そこで、見張られているのですね?」
「今のところはね。
ただ倉庫へ場所を移るって言ってて、向こうの病棟の看護士が、急いで中の物を運び出してるらしいわ」
タシュアの表情が僅かに動く。
「倉庫はどのような構造です?」
「構造って言われても……ナースステーションの隣にある小部屋を、倉庫代わりにしてるだけよ」
便利な場所だから、と主任は付け加えた。
「ナースステーションの隣と言うと、窓はありませんか……」
この建物は外から見ると円柱だが、実際にはドーナツ型になっている。
そして外側と、中の吹き抜けに面した窓のある部分が、病室や先ほどのデイルーム。内外の病室の間に中洲のように、ナースステーションや処置室が並ぶ配置だ。
当然中洲にあたる部分は、窓はない。
「その倉庫の出入り口は、幾つありますか?」
「2つあるけど、使えるのはひとつだけよ」
しまう物が多いために、ひとつは棚で塞いでしまったのだと言う。
「見張っている人数は、何人か分かりますか?」
立て続けにタシュアが質問する。
「チビちゃんたちの見張りは、さっき見たときは3人いたわね」
「3人……」
私たちは顔を見合わせた。
「タシュア、これはかなり……まずいんじゃないか?」
「悪知恵だけは一人前ということですか」
「けどマジ、その人数で中へ立てこもられたら、手も足も出ないですよ?」
ひょいと会話に加わってきた、イマドの言うとおりだ。
窓際のデイルームは壁もなく広々としているからどうにでもなるが、窓のない倉庫となると、扉を閉められたら終わりだ。例え他のテロリストを倒したとしても、中で子供たちが犠牲になってしまう。
しかも3人もで見張っていては、扉を破って全員倒す前に、誰かが銃を乱射するだろう。