Episode:47
「それにしたって……あ、起きていたのか」
不意にこの後輩が目を開けて、また驚く。
――悪いことを、言ったな。
が、イマドの答えも想像外のものだった。
「メシの気配がしたんで」
「なんですか、それは」
タシュアが間髪入れずに突っ込む。
「そう言われても、したんですって。
――先輩、あいつ、どこまで行きましたかね?」
後ろ半分は、私に向けての言葉だ。それが何故だか分かった。
「よく分からないが……たぶん、外まで行ったと思う」
「律儀なヤツだな〜。なきゃないで良かったのに」
「おや、イマドともあろう方が、ルーフェイアの性格を分かっていないのですか」
感心するほど見事に、またタシュアが突っ込む隙を見つける。
――もっともルーフェイアと違って、イマドは突っ込まれてもけろりとしているのだが。
「また先輩、そうやって後輩をいじめるんですから」
「事実を指摘しただけで、いじめてなどいませんがね」
妙にテンポよく続く応酬に、ついおかしくなりながら、私は持ってきたものを差し出した。
「とりあえず2人とも、食べないか?」
タシュアとイマドの場合、こういえばまず中断して手が出る。
「あ、ども♪」
「では、遠慮なく」
言って手を伸ばしかけて、不意にタシュアは止めた。
「まったく、よりによって、ですか」
「マジ、何考えてんですかね。
――あれ、先輩食わないんですか?」
突然タシュアとイマド――彼はもう一つ口に運んでいる――とが、何かの話を始める。
「この状況で満腹にしたりすれば、いざと言うときに動けませんからね」
「けど、ひとつくらい」
2人は分かって話をしているが、私には何のことかさっぱり分からなかった。
「その、何の話を……してるんだ?」
「すぐに分かります。
それよりシルファ、ちゃんと武器は手元にありますか?」
「え?」
同時に病棟内に悲鳴が響く。
続いて、発砲音。
「なっ……!」
慌てて悲鳴のしたほうへ駆け出そうとした私を、だがタシュアは止めた。
「待ちなさい、シルファ。今下手に出て行っては、状況を悪くしかねません」
「だがっ!」
「待つんです」
再度、タシュアが引き止める。
「状況をよく見てごらんなさい。
確かに発砲はありましたが、怪我人が出た様子はありません。ですからこれは威嚇です。
ここがどこかわきまえないような頭の悪い連中ですが、刺激しなければ今のところ、これ以上の騒ぎを起こす気はないのでしょう」
「……わかった」
タシュアの言うことが正しい。
納得はしきれないものの、私は彼のベッドの端に腰掛けた。