Episode:46
どうやっても信じられないけど、ことこういう事では「信じられないこと」がいちばんよくある。
あたしは病院の建物を見上げた。
もし本当にテロなら、どこかの病棟かフロアが占拠されて閉鎖されたはずだ。
けど現場によくある話で、情報が手に入らない。
かといって、ここを離れる気にはならなかった。
何か――嫌な予感がする。
仕方なく目立たないようにしてその辺りに立っていると、しばらくしてどこかの通信社が、取材を始めた。
『え〜、現場です。
ここ、ケンディク西総合病院が、テロリストに占拠されたとの第一報があってから、20分弱が過ぎました。
現在こちらでは――』
――やっぱり。
どうしてこのケンディクで、こんな話になったのかは分からないけど、嫌な予感は当たっていた。
もう一度建物を見上げる。
――イマドと先輩たち、どうしただろう?
みんな学院生だし、もう外へ出て来てるとは思うけど……。
報道はまだ続いていた。
『犯人グループは、占拠したフロア以外から全員退去するよう命令しており、従わない場合は病院を爆破すると宣言しています。
そのため現在こちらでは、閉鎖された7階以外のフロアからの避難が続いて――』
「なっ、7階?!」
血の気が引くのがわかった。7階は――みんながいた場所だ。
もう何も考える間もなく、病院の入り口へと向かう。
「こらっ、キミ、入っちゃダメだっ!」
入ろうとしたあたしを、警官が止めた。
「でも、中に、友だちが――!!」
「気持ちは分かるが、ダメだ。ここは私たちに任せて、向こうへ行きなさい」
「けどっ!」
どうにも埒があかない。
気が焦る。
中には、イマドが――!
◇Sylpha
ルーフェイアと別れて病室へ戻ると、ちゃんとタシュアの姿があった。
「すまない、遅くなった」
「お帰りなさい。
――シルファ、ルーフェイアはどうしました?」
目ざとく気づいて、尋ねてくる。
「それが、イマドに頼まれた飲み物を、買い忘れたと――」
「なるほど」
だがそれで納得したのだろう。それ以上は訊いてこなかった。
それから、気づく。
当のイマドの姿が見えなかった。
「ところで、イマドは――?」
あの後輩が、ルーフェイアを置いてどこかへ行くとは考え難い。
しかし、タシュアの答えは想像以上だった。
「そこのベッドで寝ていますよ」
驚いて見ると確かに彼の言うとおり、イマドは気持ちよさそうに隣のベッドで寝ている。
「こんなとことろで……」
「私も呆れました」
さすがのタシュアも、完全に呆れ口調だ。
私も、こんな話は聞いたことがない。