Episode:44
◇Rufeir
あたし、なにやってるんだろ……。
イマドに頼まれたものを忘れてしまうなんて、自分で自分が情けなくなる。
ともかくシルファ先輩と別れたあと、急いで下へ行く昇降台に乗って、病院を出た。
それから考え込む。
――どこへ、行こう。
イマドやシルファ先輩みたいに、おいしいお店に心当たりがない。
しばらく考えて、結局サンドイッチを買ったスタンドに行くことにした。
病院からスタンドまでは、歩いて5分もない。
「あの……」
「ありゃ、さっきのお嬢ちゃんじゃないか」
お店の人は、あたしを覚えていてくれた。もっともついさっきだし、いちどに5人前も買ったから、覚えてて当然だろう。
「お姉さんはどうしたんだい?」
「えっと、先輩はもう、戻ったんですけど……あたし、飲み物買い忘れて……」
「あれ、お姉さんじゃなかったのか」
どうもこのお兄さん、あたしとシルファ先輩を姉妹と勘違いしていたらしい。
――似てないのに。
落ち着いている先輩と違って、あたしの髪はどうしても目立つ。
あんなふうだったら、いいのに……。
「それで、何がいいのかな?」
「え? あ、えっと……」
また考え込む。
イマドは「フレッシュジュース」って言ってたけど、どれがいいのか分からなかった。
「あの、すみません、どれがいいんでしょう……?」
「ありゃりゃ、そりゃ困ったな」
「ご、ごめんなさい!」
泣きたくなる。
どうしてあたし、いつもこう……。
けど自分が情けなくてうつむいていたら、このお兄さんが助け舟を出してくれた。
「ほ、ほら、そんな顔しないで。
――えーと、このお勧めなんかどうだい?」
並んでいる写影のひとつを、指差してくれる。
「あの、これ……なんですか?」
色はちょっと濃い目のオレンジだけど、普通のオレンジジュースじゃなさそうだった。
「味見してみるかい?」
「すみません」
コップにほんの少しだけ、飲ませてもらう。
「あ、これ……」
味に覚えがあった。以前南方の戦地にいたときに、食べたことがある。
ただ、名前までは知らなかった。
「美味しいだろ?」
「はい。
そうしたら――これ、いただけますか?」
「もちろん」
にこにこしながら、お兄さんが濃いオレンジ色の、ちょっと細長くて丸い果物を手にして――あたしに顔を向けた。
「って、ひとり分でいいのかい?」
「え、えっと……」
また悩む。
イマドからは頼まれたから間違いないけど、先輩たちは……?
買っていっても買っていかなくても何か言われそうで、どうしていいか分からなかった。
「そんなに悩まなくたって。
そうだな、全部で何人いるんだい?」
「4人です」
これは間違いない。
「お嬢ちゃんも入れて、だね?」
「はい」
答えを聞いて、このお兄さんがうなずいた。
「だったら、4つ持ってきゃいいさ。足りないよりは、余るほうが世話がないからね」
「あ……♪」
納得する。
「じゃぁ、すみません、4人分……」
「ほいきた。ちょっとだけ待っててくれるかい」
「はい」
手際よく、お兄さんがジュースを作り始めた。
「持って帰るんだろ? 今ちゃんと、入れてあげるよ」
「すみません、ありがとうございます」
ふたのついた紙コップを4つ、倒れないようにして袋に入れてくれる。
それを受け取ってお金を払って、あたしは病院のほうへと歩き出した。
ただ行きと違って荷物があるから、ゆっくりだ。