Episode:42
(結局、誰も知らないと言うことですか)
これも異常と言えば異常だが、事実は覆しようがない。
少し頭の中で、整理してみる。
ルーフェイアが上級傭兵さえも上回るかという戦闘力と、桁外れの魔力を備えているのは、今更言うまでもなかった。
またその彼女が曰くつきの傭兵の家系・シュマー家の次期総領で「グレイス」と呼ばれることも、それ故に戦場で育ったということも、タシュアは知っている。
(ですが……)
それにしては精神的に幼すぎ、また脆すぎるというのが腑に落ちなかった。
あれだけの戦闘力を持ち戦場で人を屠って育った人間が、あれほどに繊細と言うのは――やはり異様としか思えない。
更にそこへ、精霊とのあの異常な関係だ。
「幼い頃から憑依させているから」という理由は、実は成り立たない。かつてのタシュアの弟妹はみな3歳そこらから同じようにしていたが、あんなふうになった者はいなかった。
「つまりは――グレイスですか」
その言葉が口をつく。
だが結局、それ以上の結論は出なかった。何より情報が少なすぎる。
――ひとつだけ、思い当たることはあるのだが。
この間の夏、海岸での海竜騒ぎの際、ルーフェイアは自分の力について言及している。
自分の中に強大な力を持った「何か」が居り、制御することも捨て去ることも出来ないと。
「何か」とは恐らく、グレイスが持つ特殊な精霊なのだろう。そしてルーフェイアは3歳以前からそれと共生を始め、そのまま今に至っているのは確かだ。
――これで精霊を失くしたら、どうなるのか。
憑依させていようがいまいが関係なく存在できる精霊に対し、ルーフェイアはさっきの通り動くことさえ出来なくなる。
つまりは精霊の力を、自身の生命力としても使っているのだろう。
これでは、いったいどちらが主なのか……。
謎は深まるばかりだ。
(まぁ、今考えても仕方ありませんか)
もう少し情報を揃えなければ、何も分からないだろう。
ふと見ると、点滴の残りがだいぶ少なくなっていた。イマドが寝た後に少しだけ落ち方を早くしておいたのだが、それにしても思いのほか長い間考え込んでいたらしい。
「しかし、暇ですね」
ばたばたと走り回る性格ではないが、じっとしたまま何もしないというのは少々苦痛だ。
ましてや寝る以外にすることもないのだから、尚更だった。
(早く戻ってきませんかね?)
なによりも食料が欲しい。
と、気配を捉えた。
シルファだ。
(――おや?)
どうやら食料にありつけそうだと一息ついて、タシュアは気づいた。
気配はひとつだけで、ルーフェイアのものがない。あのヒヨコの少女がどうしたものか、別行動を取ったようだった。
「すまない、遅くなった」
「お帰りなさい」
直後に病室へと姿を現したシルファの後ろには、やはりあの金髪の姿はない。
「シルファ、ルーフェイアはどうしました?」
「それが、イマドに頼まれた飲み物を買い忘れたと――」
「なるほど」
もっともそういう理由でもなければ、ヒヨコを止めたりはしないだろう。
――頼んだ当人は、あの有様だが。