Episode:40
◇The Men
4人男性が、病棟への昇降台を待っていた。
誰も何も言わない。
ただ病院ではそういう見舞い客も多い――相手の病状が深刻だと、とても雑談できない――ので、誰も気にしなかった。
3人とも少々大きめの荷物を手にしているが、それもよくある話だ。特に身内が長い間入院すると、なにやら自宅から運び込むことは多い。
「他の連中は?」
「もう、別口で」
短い会話が交わされて、また3人は黙り込む。
じき昇降台が着いて扉が開き、男たちを吸い込んだ。
「あ、待って〜!」
扉が閉まろうとしたところへ声がかかり、男の1人がボタンを押す。
「すみません。
――ほら、はやく〜!」
どうやら見舞いの一団だったらしく、最初に昇降台を止めた女性の他に、10人近い人がどやどやとやって来た。
「ちょっと、全部は乗れないよ?」
「しょうがない、私とこいつは後から行くよ」
中でも体格のいい2人が、昇降台に乗るのを諦める。
「じゃぁ、先に行ってるね。
――すみません、もういいですから」
女性に言われて、3人組の1人がまたボタンを押した。
扉が閉じ合わさり、昇降台の現在位置を示すランプの位置が次々と上へ移る。
そして入れ替わるように、もう1機の昇降台がこの場所へと着いた。
ひとりの少女が中から出てきて乗り遅れた2人に会釈し、翼があるかのように軽く外へと駆け出して行く。
「可愛い子だな〜」
「金髪に碧い瞳か。人形みたいに綺麗だったな」
そんなことを話しながら、この2人も昇降台へと乗り込んだ。
もしここで少女が――ルーフェイアがあと少し早くここへ着いて例の男たちと鉢合わせしていれば、事態はまったく違う方向へと行っただろう。
だが実際には男たちとルーフェイアが顔を合わせる事はなく、彼女は頼まれ物を買いに病院の外へと出て行った。
◇Tasha Side
なんとはなしにタシュアは、天井を眺めていた。
――することがない。
シルファに「約束する」と言った以上は抜け出すわけにもいかず、大人しくベッドの上で寝ているだけだ。
(まぁ、今晩だけの辛抱ですし)
本音を言えばすぐにでも出て行きたいが、そんなことをすればシルファが大騒ぎするのは目に見えていた。
もっとも彼女の前で倒れた――そもそもこんなふうに倒れた事がない――のは初めてだから、心配で仕方がないのだろう。
隣のベッドではイマドが、それこそ気持ちよさそうに熟睡していた。
(何を考えているのやら)
呆れて言葉が出てこない。
だいたいがアラームまで合わせていると言うのだから、完全な故意犯だ。
(看護士でも来れば、面白いのですがね)
叩き起こされて慌てふためく顔を見てみたいが、さすがに看護士を呼ぼうとまでは思わない。
だいいちうっかり何かをして、目をつけられては面倒だ。
ヴァサーナ産まれでわけありのタシュアは、調べられるとやっかいなことが多い。幸い先ほどの採血では誰も気づかなかったようだが、これ以上は願い下げだった。
それにしてもドクターも看護士も気づかないのだから、ある意味たいしたものだ。
(よくそれで、医療者と言えますこと)
暇なことも手伝って、タシュアの毒舌は途切れる事がない。