Episode:04
「いえ、私はけっこうです」
「あたしも、もう……」
とりあえずは2人とも、満足したようだった。
「そうか。そうしたら私はこれを片付けるから、その間にお茶も飲んでおいてくれ」
たいした量ではないが、一応洗い物がある。
「シルファ、それではあなたが食べられないでしょう」
そう言うと、最後に残っていたコーヒーを口にして、すっとタシュアが立ち上がった。
「洗っておきますから、食べてはどうです?」
「すまない」
流しの前にタシュアが立ち、入れ替わりに空いた席へ座る。
――これならもう、この子は泣かされないな。
そんなことを思いながら、フォークを手にした瞬間。
「シルファ、私は別に泣かせるようなことは言っていませんよ」
見透かしたかのように、すかさずタシュアが突っ込んできた。
「あ、いや……」
思わず返答に困る。
当のルーフェイアの方は、目を丸くして彼が洗い物をする様子を眺めていた。タシュアが私に代わって洗い物をするなど、考えもつかなかったらしい。
だがこの学院では孤児が多いせいもあって、自分のことは自分でやるのが普通だ。男子でも例外ではない。
むしろルーフェイアのように、自分でなにもしなくとも困らなかったという方が、ずっと稀だろう。
「ルーフェイア、何をそんなに見ているのです」
「ご、ごめんなさいっ!」
背中を向けたままのタシュアに鋭く言われて、この子が縮こまった。
そして彼が振り返る。
「以前もそう言ったかと思いますがね」
「………」
ますます身を縮めたルーフェイアの瞳から、何度目かの涙がこぼれた。
タシュアの暇つぶしなのは分かっているが、これでは埒があかない。
「その、タシュア、ルーフェイアが食べ終えるまで……泣かせないほうが……」
柔らかな金髪を撫でてやりながら、タシュアに言う。
だいいちタシュアの毒舌も、泣かせるのが目的なせいで、言っていることはかなりいい加減だ。
「泣かせているわけではないと、先ほども言ったはずですが?」
「でも、これでは間に合わないだろうし」
いくらなんでも泣かされ続けて遅れるのは、可哀想だろう。
「やれやれ……」
タシュアはそうため息をついたが、今度はもう何も言わなかった。またこちらに背中を向けて、洗い物の続きを始める。
「ほら、ルーフェイア、早く食べてしまわないと」
「……はい……」
顔を上げたこの子の涙をぬぐってやりながら、急かす。
「おいしいか?」
「はい」
この後はタシュアが黙ったこともあって、順調だった。どうにか時間前に食べ終わる。
さすがの彼も、遅刻させる気はないのだろう。