Episode:38
「先輩も、何か見つけたんですか?」
その手にやっぱり本があるのを見て、あたしは訊いてみた。
「ああ、これか? 一応、新刊なんだが……」
先輩が本を見せてくれた。タイトルは「光と闇の氾濫」、著者がサラ=アルテニーと書いてある。
内容は、何かファンタジー系の小説みたいだ。
「面白そうですね」
「そうか? 実を言うと、私もそう思ったんだ」
結局、2人で自分の読みたい本を選んでしまったらしい。
「これで……タシュア先輩、大丈夫でしょうか……?」
せっかく買っていっても先輩の好みじゃなかったら、申し訳ない。
けど、シルファ先輩が請け合ってくれた。
「タシュアは何でも読むんだ。だから、心配しなくていい」
「じゃぁ、大丈夫ですね」
2人で1冊づつレジへ運ぶ。
タシュア先輩の本だからと、シルファ先輩はあたしが持ってきた分まで、会計を済ませてくれた。
「あとは、食べ物……ですよね?」
「そうだな」
病院のほうへ戻りながら、また悩む。
「何に……しましょう?」
「そうだな……。
途中のスタンドあたりで、買えばいいんじゃないか?」
「あ、いいですね♪」
ケンディクは観光都市のせいか、ちょっとした軽食を売るスタンドがけっこう多かった。簡単だしそこそこ量もあって、学院の生徒には特に人気だ。
もちろん病院まで帰る途中にも、何軒もある。
「サンドイッチとかで、いいんでしょうか……?」
「なんでもいいんじゃないか? 量は、要ると思うが」
確かにタシュア先輩もイマドも、とてもよく食べる。多分2人で4人前くらい要るだろう。
ともかく食べているのを見ていると、どこへ入るのか不思議でしょうがないほどだ。
と、シルファ先輩の表情が引き締まる。
「ルーフェイア、分かるか?」
「はい」
実を言えばあたしは、もう少し前から気がついていた。
誰かが、あたしたちを尾けている。
ただその気配にはたいして緊迫感がなかったから、放って置いたのだ。
「――なんだろうな?」
「さぁ……?」
何をするわけでもなくて、ただついてくる。
けど、こういうことは初めてじゃなかった。ケンディクの町だけじゃなくて学院の中でも、時々誰かが後ろをついてくることがあるのだ。
――殺気があれば、考えるんだけど。
最初はスパイかなにかとも思ったけど、ついてくるのは大抵学院の先輩の誰かだ。それに聞いた話じゃ、シルファ先輩も時々そういうことがあるという。
だからもう、気にもしなくなってたけど……。
「先輩、いちおう確かめますか?」
「そうだな」
途中の十字路で、二手に分かれる。
気配は、シルファ先輩のほうへ向かった。あたしも気配を殺して逆戻りして、今度は後ろから追う形を取る。
ついてきていたのは、やっぱり男の人だった。
――あれ?
途中の曲がり角でちらっと見えた顔に、見覚えがある。やっぱり学院の先輩で……でも、シルファ先輩やタシュア先輩よりは年下だったはずだ。
だとすると、何か用なんだろうか?
思い切って近づいた。ただ気配は殺したままだ――というより、気配を隠すのが染み付いてしまっている――から、この先輩は気づかない。