Episode:37
「その、すみません……」
「いやいや。
それよりその――ひとりかい?」
「え?」
今度は突拍子もないことを訊かれる。
「えっと、その、他の先輩と一緒で……」
「その先輩、どこに?」
答えに詰まった。
この本屋さんの中にいるのは間違いないけど、「どこか」は分からない。
「その、ここのお店のどこかに、いるはずなんですけど……」
「ふぅん……」
奇妙なものを感じて、どうしようか迷う。
けど、先輩にあんまり失礼な事はできないし……。
内心困っていると、ちょうどいい具合にシルファ先輩が戻って来てくれた。
「ルーフェイア、何かいい本は――?」
言いかけて、シルファ先輩がこの男の先輩に気づく。
「何か、あったのか?」
「その、踏み台から落ちたんですけど、こちらの先輩に助けてもらって……」
「なんだって?!」
今度はシルファ先輩があたしの前に立って、上から下まで一通り眺めた。
「あの、ほんとに平気なんです」
なんだか恥ずかしくなって、慌てて言う。
「そうか? それならいいんだが」
それからシルファ先輩が、この男性の先輩に向き直った。
「――この子を助けてもらって、済まなかった」
「いや、俺も別にそういうわけじゃ……。
とりあえず用事もあるし、これで失礼するよ」
どういうわけか、あたしたちが止める間もなくその先輩は立ち去ってしまう。
「なんだったんでしょう……?」
「私に訊かれても……」
シルファ先輩と2人で首をかしげたけれど、理由は分からずじまいだ。
――あとでイマドに、訊いてみようかな?
こういうことは、彼はよく知っている。
「それより本当に、大丈夫だったのか?」
まだ心配みたいで、シルファ先輩が尋ねてきた。
「あ、はい、大丈夫です。
その……落ちたときに、さっきの先輩の上に、あたし落ちて……」
「そうだったのか。運が良かったな」
――そういう問題なんだろうか?
何かが微妙に違う気がするけど……。
でも床に落ちていたらアザくらい作っただろうから、やっぱり運が良かったのかもしれない。
「それにしても……どうして落ちたんだ?」
「あの本、取ろうと思って……」
棚の上を指差す。
引き出しかけたさっきの本は、落ちたりしないでまだその場所だ。
「――これか?」
シルファ先輩は背が高いから、片足を踏み台の上に乗せただけで手が届いた。
「なんだか、難しそうな本だな……」
「ずっと発売延期になってた、本なんです」
「そうなのか」
本を見ながら、なぜかシルファ先輩が感心する。