Episode:34
「ともかく、行ってくる。
――イマド、ちゃんとタシュアを見張っててくれないか?」
「そりゃ構いませんけど……」
なんかヘンな役が、俺に回ってくるし。
と、ちょこちょこルーフェイアのやつが、俺のとこまで戻ってきた。
「どした?」
「あのね……イマドも何か、いる?」
「へぇ、気が利くじゃんか」
ヒヨコ一辺倒のこいつが、珍しく他の事に気がついたっぽい。
「そしたらそうだな、俺も食いモン頼むわ。あと、なんか飲みもの――フレッシュジュースがいいかな?」
「――うん♪」
お遣い頼まれたガキんちょよろしく、にこにここいつがうなずいた。
「じゃぁ、イマド、頼むぞ。
――ルーフェイア、行こう」
女性陣2人が、楽しそう?に病室を出てく。けどこっちはヤロー2人で残されてるから、たいして面白かない。
――ま、いいけど。
とりあえず俺は、自分のバッグを漁ることにした。叔父さんちから帰る途中でここまで来ちまったから、当然中の荷物はそのままだ。
「えーと、お、無事だ無事♪」
目当てのものを引っ張り出す。
「先輩、食います?」
出したのは、道中の食料の残りだ。
なんせルーフェイアとシルファ先輩、本までお遣いに頼まれてる。だとすりゃ、ちょっとやそっとじゃ戻ってこねぇだろう。
けど冗談ヌキで、それまで待ちきれねぇし。
「おや、ありがたいですね」
こと食料になると、タシュア先輩も素直だ。
「残りで悪いんですけど、ちゃんと食えますから」
「では遠慮なく」
妙な光景になる。
とは言えバッグの中に入ってる食料の量なんざ、たかが知れてる。挙句にヤロー2人じゃ、なくなるのにさして時間はかかんなかった。
――かといって一応腹がふくれたから、買出しに行くのは面倒だし。
思いっきりすることがない。
「……あいつ帰ってくるまで、寝っかな」
「どこでです」
「いや、ここで」
大部屋がヤだとかタシュア先輩がごねたせいで、ここは2人部屋――個室はいっぱいだったらしい――だ。
んでこの部屋、ベッドが1つ空いてる。
「入院したわけでもないでしょうに」
「バレなきゃそれまでですって」
それに病院の看護士は忙しいから、こんなぴんぴんした患者をそうそうは見に来ない。看護士やってる叔母さんの話じゃ、だいたい2時間おきくらいだったはずだ。
「えーと、1.5時間後にして……」
アラームを合わせる。
「まったく、何を考えているんです。
だいいちイマド、シルファに私の見張りを頼まれていたのではありませんか?」
「俺が先輩見張ったって、ムダだと思いますけど」
この先輩がマジで抜け出す気になったら、どうやったって出し抜かれるのがオチだ。
「んじゃすいません、俺、寝ますんで」
さっさとベッドの上に上がりこむ。
それから、思い出した。
「先輩、看護士やってる叔母さんの話じゃ、勝手に点滴早くして終わらせようとかすると、ショック起こすらしいですよ?」
って言うか、そゆ患者、マジでいたらしい。
けど先輩からは、けっこう意外な答えが返ってきた。
「――私をなんだと思っていますか」
「あ、知ってました?」
こんな情報、どこで手に入れたんだか。
――まぁ、こうやって釘刺しときゃ、点滴終わるまではどこにも行かねぇだろうけど。
「んじゃそゆことなんで、今度こそ寝ます」
ちゃっちゃと毛布をかぶる。
あとは幾つも数えないうちに、俺は眠りに落ちた。