Episode;33
「どっかで食いモンでも、買ってくっかな」
なんとなく言う。
「また、食べるの……?」
聞いたルーフェイアのやつが、目を丸くしやがった。
「しょうがねぇだろ、腹減るんだから」
「――私も行きますかね」
「タシュアっ!!」
起きてどうにか出てこうとした、タシュア先輩に声が飛んで、またベッドの中へ逆戻りだ。
「なんでそう、抜け出そうとするんだ!」
「ですから、最初から必要ないと言っていますが?」
「そんなワケないだろう!」
ず〜っとこの調子だし。
「タシュアが抜け出さないなら、ちゃんと私が買ってくる」
「私がいつ、抜け出すと言いました」
けっこう聞いてると面白ぇかも。
「今、抜け出そうとしたじゃないか!」
「買いに行こうとしただけです」
ほとんど夫婦喧嘩だ。
そこへルーフェイアのヤツが、おそるおそるって調子で割って入った。
「あの、でしたら……あたしが、買いに行きますけど……」
「遠慮します」
間髪入れずにタシュア先輩が断る。
――気持ちは分かっけどな。
なにせルーフェイアときた日にゃ、ウソみてぇな食べ物音痴だ。
「だから、抜け出さないなら私が行くと、言ってるじゃないか」
「分かりました、抜け出しませんよ。約束します」
結局腹が減った――この食欲でホントに熱あるのか?――のに勝てなかったらしくて、タシュア先輩が根負けした。
で、シルファ先輩の態度が一変する。
「そうか、そうしたら――何がいいんだ♪」
妙に嬉しそうだ。
タシュア先輩もおんなじことを思ったらしい。
「シルファ、何がそんなに嬉しいのです?」
「そ、そんなことは、ないぞ」
黒髪の先輩が慌てて言い繕った。
――まぁ、世話やくのが嬉しいんだろな。
世話やく機会に事欠かねぇルーフェイアと違って、タシュア先輩じゃそゆことはゼロに近い。
「――やれやれ。
そうですね、そうしたら……食べるものを少々と、暇つぶしになるような本をお願いできますか?」
「分かった♪」
いそいそとバッグを持って出てこうっつーシルファ先輩、やっぱ嬉しそうだ。
それからふと、立ち止まった。
「ルーフェイア、一緒に来るか?」
「――? あ、はい♪」
一瞬だけきょとんとしてから、ルーフェイアのやつがにこにこ後ろにくっつく。
「ここにいると、またタシュアにいじめられるだろう?」
「え、そんなこと……」
「私がいつ、いじめましたか」
「いつも、泣かせるじゃないか」
どうもシルファ先輩、さっきからの騒ぎでついた勢いがまだ残ってるらしい。