Episode:31
見るとルーフェイアが、呆然とした表情だった。イマドにいたっては、後ろを向いて笑っているらしい。
そしてぽつりと少女がつぶやく。
「タシュア先輩、強いんですね……?」
「そういう話じゃない!」
「ご、ごめんなさいっ!」
珍しくシルファに突っ込まれて、ルーフェイアがまた平謝り状態に入った。
「泣かせてどうするのです」
「え、あ、いや……えっと、そういうつもりじゃ……。
――そうじゃない! タシュア、病院へ行くぞ!」
なぜか、とばっちりがこっちへ来る。
「一晩寝れば治ります」
「だめだ!」
いつになくシルファは強引だ。
そこへおずおずと、ルーフェイアが口をはさんだ。
「あの、先輩……風邪薬ならあたし、持ってますけど……」
言いながら、持ち歩いている小さなポーチを開けている。
「本当か? そうしたらタシュア、とりあえずそれを――」
「冗談はやめてください」
飲まされそうな勢いに、思わず言い返した。
「ルーフェイアに合わせた劇薬など飲まされた日には、命がいくつあっても足りません」
「あの、これ……わりと普通の、お薬ですけど……?」
「その『わりと』と言うのはなんですか」
「え……」
ルーフェイアが答えに窮する。
――もっとも薬というものは、どの辺を「普通」とするか微妙なのだが。
どちらにしても、得体が知れないのは確かだ。
「ともかくお断りします。まだ病院の薬のほうが、数段ましでしょうからね」
「じゃぁ、行くんだな?」
シルファはなんとしても、病院へ連れて行きたいらしい。
「誰が行くと言いましたか」
と、このやり取りを聞いていたルーフェイアが、珍しくまた口をはさんだ。
「あの、先輩、もしかして、病院嫌い……なんですか?」
「病院が好きな方というのは、見たことがありませんが」
タシュアの答えに、少女がちょっと首をかしげて考え込む。
「あたし、嫌いじゃないですけど……」
「それは例外です」
「話が違うだろう!」
延々と続く押し問答?に、とうとうシルファがしびれを切らした。
「ともかく、行くんだ!!」
「……分かりました」
ため息をつきつつ同意する。タシュアが絡むとシルファは頑固なのだ。
それにここで逆らったところで、医者に診てもらうまで彼女が騒ぎつづけるのは間違いない。
どうせ行き着く先が同じなら、先に済ませてしまうほうがいいだろう。
「んじゃ俺、車呼んできましょうか?」
「ああ、頼む」
シルファの答えを背に、妙に気の利くイマドがフロントのほうへと駆けていった。