Episode:30
(今晩は早く寝ますか)
さっさとそう結論付けて2度目のボールを手に取った、その時だった。
「――?」
不意に辺りが揺れた気がして、動きを止める。
(地震、ですか……?)
が、その割には周囲が騒ぐ様子はない。
そして急に視界が暗転する。
シルファが何か言っているのが、遠く聞こえた。
(そんなに騒いでは、他のお客の迷惑でしょうに)
なにがどうしたのか把握しようとしながら、ぼんやりと突っ込みだけは入れる。
状況が良く分からなかった。
「きゅ、救急車っ! 早くっ!!」
「シルファ先輩、落ち着いてくださいってば」
やりとりが聞こえる。
と、誰かがちょんちょんと突付いてきた。
「先輩、生きてますか……?」
ルーフェイアの声だ。
「――勝手に殺さないでもらえますかね」
反射的にそう言い返してから、やっとタシュアは自分の状況に気がついた。
(私としたことが)
体調が悪いのに出歩いたのが祟って、倒れたらしい。
うろたえきったシルファが目に入る。
「なんですか、その顔は。たいしたことはありませんよ」
「倒れておいて、『たいしたことない』わけがないだろう!!」
「動けるのですから、問題ありません」
言って起き上がろうとする。
「おや?」
身体に力が入らなかった。上手く立ち上がれない。
「だから言ったじゃないかっ!!」
普段は物静かなシルファが、かなりの剣幕だ。
もっともイマドはあの性格だし、ルーフェイアも以前こういうシルファを目にしたことがあるため、それほど気にする様子はない。むしろタシュアのほうを見て、2人とも「意外そのもの」という表情をしていた。
「私が人並みなのが、そんなに意外ですか」
「いえ、あの……すみません……」
「タシュア、突っ込んでる場合じゃないだろう!」
始まりかけたいつものやりとりを、シルファが遮る。よほど心配しているようだ。
(――彼女らしいですね)
意外だが、シルファにはこういう一面もあるのだ。
「熱でも、あるんじゃないか? じゃなきゃ、なにか病気とか」
もう一度起き上がりかけたところへ、彼女が手を伸ばしてくる。
これがルーフェイアあたりなら反射的に避けたのだろうが、シルファだったために避けなかった。
次の瞬間。
「タシュアっ!!」
「なんです、大声を出したりして」
「こんなに熱があって、何で言わなかったんだっ!」
「おや、熱がありましたか」
どうりで調子がよくないわけだと納得する。