Episode:03
「シルファも甘いこと」
「でも、どうせ行くんだ。それに駅までだし」
きっちりと突っ込んできたタシュアに、いちおう言葉を返す。
ルーフェイアはひとりを嫌がる子だ。だからもう慣れているケンディクでも、あまりひとりでは行きたがらない。
だが、その気持ちはよく分かった。
私も……やはりひとりは、苦手だから。
「イマドはいつ頃、駅に着くんだ?」
尋ねると、ルーフェイアが顎に手を当てちょっと首をかしげて――癖らしい――から答えた。
「えぇと……確か、12時半過ぎには着くって……」
思わず時計を見る。
が、状況を理解したのはタシュアのほうが早かった。
「次の連絡船に乗らなければ、間に合いませんよ」
「え、あ、すみません!」
「誰も謝れとは言っていませんが」
またタシュアに突っ込まれて、ルーフェイアの瞳に涙がにじむ。
――でも。
私以外は誰も気付いていないだろうが、これで案外タシュアは、ルーフェイアに甘い。確かにいつも泣かせてはいるが、逆に言えばそれだけ相手をしているということだ。
タシュアがこうやって多少なりとも相手をするのは、知るかぎりではこの子だけだろう。
だいいち今も突っ込みながらだが、ちゃんと間に合う時間を教えている。
「とりあえず、まだ時間はあるだろう?
ほらルーフェイア、食べてしまった方がいい」
このまま泣いていて食べはぐるのも可哀想だから、そう言ってうながす。
「すみません……」
「それはいいから」
華奢な手にフォークを握らせる。
ここまでやると、ようやくこの子はケーキを口に運んだ。
隣のタシュアも食べ始めて、内心ほっとする。
「おや、何か材料を変えましたか?
味と香りが、いつもと微妙に違いますが」
「――よく分かったな」
もっとも彼は五感が鋭い。このくらいなら分かって当然だろう。
「ブランデーを切らしていたから、リキュールを入れたんだ」
「なるほど。
ですが私は、いつもの方が好きですね」
そうは言いながらしっかり食べているのだから、さすがだ。
「あの、リキュールってなんですか?」
「――後で教えるから、先に食べてくれないか?」
「あ、はい」
無邪気に訊いてきたルーフェイアを、どうにか食べる事に専念させる。
恐らくリキュールが何かなど全く知らないだろうから、ここでそんな話になればまた墓穴を掘って泣かされるだけだ。
――それにしても。
この2人が並んで食べていると、不思議な雰囲気があった。
男子と女子、銀髪と金髪、紅眼と碧眼……その容貌は見事に正反対だ。
しかも容貌だけではなく、性格も正反対。
ただこうしている様は、どことなく兄妹といった感じにも見える。
「あの、なにか……?」
私が見ている事に気付いて、タシュアではなくルーフェイアが顔を上げた。
「いや、なんでもない。
――2人とも、もう少し食べるか?」
すでに食べ終えてしまったタシュアと、半分ちょっと食べたルーフェイアとに尋ねる。