Episode:29
「って、ホントにまた真っ直ぐ投げるか?」
「たいしたもんだな……」
素直と言うのだろうか? ルーフェイアが投げたボールは、また見事に真っ直ぐ進んでいく。
「なんと言いますか」
タシュアも呆れる以外に言葉がない。
そうしているうちに、ボールは左側の4つを次々と壊した。
「えっと……9個?」
「10個しか的がないんですから、当然でしょう。引き算すればすぐ分かります」
「ごめんなさい……」
本当に面白いくらい予想通りの反応を示す。
「これだけ壊したんだから、いいじゃないか。
――タシュア、投げないのか?」
「投げますよ」
どうもシルファは、最近は対応の仕方を覚えてきたようだ。
(――他の手を考えますかね?)
そんなことを思いながら立ち上がってボールを手にし、投球ゾーンへと出る。
後輩2人が興味深々といった調子で見ているのが分かった。
「何がそんなに面白いのです」
「す、すみません!」
「あ、気にしないでくださいってば」
振り向いてのタシュアの一言にルーフェイアはまた謝ったが、イマドのほうは適当な調子だ。
さらに言うのも面倒で、そのまま投げる。
「さすが、速えぇぜ……」
「すごい……」
後輩たちが驚いた。
「まぁ――まずまず、ですか」
コースがやや甘く左半分が残ったが、左右に散らなかっただけいいだろう。
だが戻ってくると、シルファが怪訝そうな表情だった。
「どうかしたのですか?」
「その……大丈夫、なのか?」
「なにがです?」
重ねて訊くと、シルファがくちごもる。
「はっきり言わないと、わかりませんが」
「いや、なんと言うか……力任せに投げてるように、見えたんだが……」
「そんなことはありませんよ」
言い切ると、シルファはそれ以上追求してこなかった。それ以上訊いても無駄だというのを、よく知っているからだろう。
それにしても、さすがに彼女は鋭い。普段から傍で見ているだけのことはある。
実を言えば、今日に限って任務の疲れが抜けなかった。そのせいでどうもコントロールが今ひとつ効かず、力の加減も上手くいかないのだ。
(――徹夜が祟りましたかね?)
たいした任務ではなかったのだが、警戒時間が長くほとんど仮眠も取っていない。
ただこういう事は初めてだった。かつて戦場にいた頃も、上級傭兵となって任務をこなすようになってからも、徹夜程度でバテたためしはない。
とはいえ、いま本調子でないのは確かだ。