Episode:27
「――げ」
投げると同時に妙な声。
「どうしたの?」
「2つ残った」
不思議そうにルーフェイアが考え込む。
「よく……分かるね?」
「普通分かるだろ?」
「そうなの?」
それにしてもここまで知らないとなると、たいしたものだろう。
ともかく後輩たちがそんなやりとりをしているうちに、ボールが密集していた魔法球に当たり、言った通り2つ残った。
少女が顔を上げる。
「――イマド、占い師になれるね?」
「やめてくれ……」
珍しく突っ込んだ少女の言葉に、イマドは心底嫌そうな表情だ。
「えっと、あの、イマドごめん……」
「いいって。っつーか、こないだ妙に姉貴にからかわれただけし。
――けど、なんか思い出したらハラ立ってきたな」
なにやらぶつぶつ言いながら、戻ってきたボールを手にし、また無造作に投げる。
「って、またかよ〜っ!」
「今度は……どうしたの?」
「外した」
「そうだな」
ボールのコースを見ながら、シルファが相槌を打つ。
「先輩も……分かるんですか?」
「いや、慣れてくれば大抵、分かるぞ?」
そのうち見事にボールが、魔法球を素通りした。
「スペア行くと思ったのによ」
「すぺあ……?」
ぼやくイマドの隣で、ルーフェイアは今度はきょとんとした表情だ。
「どこに、スペアなんてあるの?」
「違うって! あ〜もう、今説明すっから……」
毎度のことながら、本気で知らなかったらしい。
「この調子では、投げ方を知っているかどうかも怪しいものですね」
「すみません……」
いつものパターンだ。
もっともシルファもイマドも慣れてしまっているから、以前のようには気にしない。
「ルーフェイア、先に投げてもいいか?」
「あ、はい、どうぞ」
すんなりとルーフェイアが了承した。そもそもが、自発的な行動力には欠ける子だ。反対するわけもない。
投げようというシルファは、嬉しそうだった。もともと上手い――タシュアより上だ――のに、しばらく来ていなかったせいだろう。
女性なうえ長い髪と口下手ゆえの無口から、大人しい性格と思われることが多いが、実際の彼女はかなりの肉弾派だ。
軽く床を蹴ると、優雅に投球ゾーンへと出る。
「――!」
イマドがまた妙な声を出した。
「どこを見ているのです」
「あ、いや、その……」
「――?」
例によってルーフェイアは分かっていないが、タシュアは周囲で投げていた男性グループも、こちらを見ているのに気がついていた。
(まったく、よく見つけますこと)
要するに、深く開いたスカートの前スリットから覗く、シルファの脚を見ているのだ。
――当のシルファは気づいていないのだが。
どうもこの辺が、シルファは鈍い。肌を見せるのはひどく嫌がるのに、ブラウスが透けているのは気にしなかったりするのだ。
投球動作に入った彼女は、流れるように腕を動かし、なめらかにボールを押し出した。