Episode:26
「ルーフェイア、これを」
瞳が何も見ていないのに気づいて、やむなく手に持たせた。
そのまま様子をうかがう。これで当人が、手の内のものを認識出来なければお手上げだ。
だが幸い、この子の表情が僅かに動いた。上手く気づいたようだ。
結晶化していた精霊が光に変わり、消える。同時にルーフェイア自身に表情が戻り、荒い息をついた。
「いったい……どうしたんだ?」
何が起こったのか、まだ理解出来ないのだろう。シルファが尋ねる。
少し間を置いて少女が答えた。
「あたし、精霊外すと……体調、狂って……」
「ばかやろっ、そゆのは早く言えっ!」
「ご、ごめん……」
間髪入れずのイマドの怒声に、ルーフェイアが泣くのも忘れて謝る。
「ったく、言うこと聞くのも時と場合によるだろっ!
こんなんでどうかなったら、どうするつもりなんだよ!」
「イマドの言うとおりだぞ」
心配しているのだろう、シルファの声もいつもに比べるとやや厳しい。
「ごめんなさい……」
保護者二人に言われて、さすがに少女がしょげ返った。
「――まぁいいや、ともかくボール持ってこいって」
「あ、うん」
慌ててルーフェイアが、軽いボールを取りに行く。
(問題なさそうですね)
さっきとはうって変わって、その足取りも動きもしっかりしている。
程なく少女が戻ってきた。
「えぇと、向こうか。
――ルーフェイア、行こう」
シルファが場所を確認して移動し、後輩たちが続いた。係員に指定された場所まで行くと、借りたベルト浮遊石が反応して身体が軽くなる。
誰かバランスでも崩すのではないかと、ひそかに期待したのだが、それはなかった。
(残念ですねぇ……)
ルーフェイアあたりが何かしくじると面白いのだが、この子は身体を扱うことに関しては、群を抜いている。
「ほらルーフェイア、お前投げてみろよ」
「え、でも……」
うながされたこの子がためらう。
「まさか、やり方が分からないというのではないでしょうね」
「いえ……」
そうは言うものの、ルーフェイアは不安そうだ。
キエーグは要するに、玉投げだ。少し離れた場所にある魔法で作った10個ほどの玉を、こちらから別の玉を投げて壊す。
――ただし、浮いた状態で。
元々は玉を転がして、少し先にある的に当てていたらしい。だが浮遊石が増産出来るようになった頃から、今のスタイルに変わった。
単純なルールに加え投げ方なども自由度が高いのだが、足元が不安定なうえ玉の重さは変わらないので、コントロールが難しい。
加えて的のほうも、ふわふわと漂う魔法球が使われるようになり、さらに難しくなっている。
「ったく、んじゃ、俺投げっぞ」
埒があかないと見たのか、イマドがトップを買って出た。本当にこの後輩はそつがない。
そのままふわりと投球ゾーン――床はない――へ出て、意外なくらいきれいなフォームで、だがどこか無造作に投げた。