Episode:25
(よくまぁ、平気ですこと)
そのタシュアの前で、少女はやはり悲しそうに石化した精霊を、見つめるだけだった。
雰囲気に耐えかねたのだろう、シルファが口を開く。
「その精霊は……炎系か?」
「えっと、炎系の……サラマンダーなんです」
シュマーなだけあって、あまり聞かない名前の精霊だった。
「サラマンダー? 珍しいな、中級か?」
「えっと、多分そうだと、思うんですけど……」
しかも分類まで適当らしい。
とはいえ分類は人が設けたものだ。すべての精霊が当てはまるとは限らない。
「こっちはこないだの、雷呼ぶヤツだろ?」
翠かかったほうのクリスタルを指差して、イマドが訊いた。いつも一緒にいるがゆえに、何を持っているか把握しているのだろう。
「うん」
ルーフェイアのほうもうなずく。
ただ次の台詞は、少々予想外だった。
「イマドも……要る?」
貴重なはずの精霊を差し出して、呆れるようなことを言い出す。
「いいっていいって」
「でも、家にいっぱい……余ってるし……」
「――マジかよ」
イマドがため息をついた。
「なんと言うか……凄いな」
シルファもさすがに度肝を抜かれたようだ。
「まったく、あなたの家と来た日には。
ですがそれより、早く始めたほうがいいと思いますがね」
「――あ」
ひとり冷静だったタシュアが指摘すると、シルファが妙な声を出した。
改めて思い出したのだろう。
「ルーフェイア、ほら、早くいちばん軽いの持ってこいって」
「……うん」
イマドにうながされて、少女も精霊を仕舞い込み、とことことボールを取りに歩き出した。
が、その足取りが何かおかしい。
「ルーフェイア、どうかしたのか?」
「いえ、なんでも……」
心配したシルファが問いかけたが、帰ってきたのはいつもどおりの答えだ。
(ですが……)
医者ではないタシュアが見ても、平気なようにはとても思えない。
と、不意にこの子がよろけた。
「おいっ!」
「ルーフェイアっ!」
イマドとシルファとが、とっさに出て両側から支える。
「どうしたっ、大丈夫か!」
「うん……」
問いに答えるその表情は、虚ろだった。そうとう消耗しているように見える。
「本当に大丈夫か? 戻って休んだほうが、いいんじゃないのか?」
心配そうに言ったシルファの言葉も、今ひとつ届いていないようだ。ぼうっとした様子のまま、かすかにつぶやく。
「……精……霊……」
「え?」
「精霊? それがどうしたんだ?」
両側で支えながらイマドとシルファとが不審がったが、タシュアはピンときた。
すぐに少女の荷物を開け、先ほど外していた精霊を取り出す。