Episode:24
◇Tasha Side
妙に強引なシルファに連れられていったキエーグ場は、思いのほか空いてた。休日なものの、春たけなわと言った暖かい日和のせいだろう。
とはいえ、まったく人がいないわけではない。
「待つしかないな」
「まぁ、さほどは待たないでしょう」
ざっと見回した感じからタシュアは、すぐ空くと判断していた。さっさと用意をし、ボールを取りに向かう。
「ルーフェイア、ちゃっちゃとボール取ってこいって」
「う、うん」
いつのまにかボールを手にしているイマド――呆れるほどに要領がいい――にうながされて、ルーフェイアもボールを取りに来た。
(無事に選べますかね?)
面白半分に見ていたが、さすがにこの程度は知っていたらしい。きちんと棚に沿って歩いて、どれにするか迷っている。
と、この少女がタシュアの隣まで来て立ち止まった。
「♪」
なにやら嬉しそうな顔をすると、ひょいと同じボールを手にする。
「――あいつ、どーゆー腕力してるんですかね?」
「私に言われても、困るんだが……」
少し離れたところで、同じように見ていたシルファとイマドがそんな言葉を交わしているのを、タシュアの鋭い耳は捉えた。
もっとも、そう言って当然だろう。
なにしろタシュアは、普通なら持ち上げるのがやっとという両手剣を、「片手で」振り回せるほどの膂力の持ち主だ。それなのに折れそうなほど華奢なルーフェイアが、楽々と同じボールを持っているのだから、これはもう奇異としか言いようがない。
「ルーフェイア、あなたの腕にその重さは、余ると思いますがね」
さすがに呆れて忠告する。
だがこの少女は、事態をまったく理解していなかった。
「これ、重いんですか?」
シルファやイマドはもちろん、タシュアも一瞬絶句する。
「おい、いちばん重いやつだぞ、それ」
「え、そうなの?」
どうにか立ち直ったイマドが説明したが、まだそれでもルーフェイアは理解できないようだった。
この状況にタシュアは、あることに思い当たる。
「――今も精霊を憑依させているのですか?」
精霊を使って身体機能を引き上げれば、本来を遥かに上回る力を出せるようになる。
「はい」
案の定、この子が素直にうなずいた。
「普段から精霊に頼るのは、考えものですよ」
言われて少女は視線を落とす。
「ルーフェイア、本当に、大丈夫なのか?」
シルファからも言われて、ルーフェイアがひどく悲しげな表情になった。
(――なにが悲しいのやら)
なにしろタシュアにしてみれば、泣いたり嘆いたりしてもことは運ばないと言うのが信条だ。
だが優しいシルファは、そうは思わなかったらしい。
「いや、その――今までそうしていたなら、大丈夫なんだろうが」
慌てて言い繕っている。
ルーフェイアが寂しげに微笑み、その手の上にクリスタル状のものが2つ現れた。所有者が決まってる精霊を外すと、こういう形をとる。
――それにしても。
「2体も憑依させていたのですか」
「――はい」
憑依させる精霊の数が増えれば、それだけ負担も増すのだ。