Episode:22
「――あいつ、どーゆー腕力してるんですかね?」
「私に言われても、困るんだが……」
何を思ったのかルーフェイアは、タシュアと同じ重さボールを手にしたのだ。
「ルーフェイア、あなたの腕にその重さは、余ると思いますがね」
さすがのタシュアも、呆れ顔で忠告する。
当たり前だが重いものだと、破壊力がある代わりにコントロールが難しい。大剣を片手で軽々と扱うタシュアならともかく、折れそうに華奢なルーフェイアでは、どう見ても手に余るだろう。
だがこの子は、なんのことか分からないようだった。しばらく自分が手にしたボールを見、首をかしげながら言う。
「これ、重いんですか?」
一瞬私たちは沈黙した。
「おい、いちばん重いやつだぞ、それ」
「え、そうなの?」
イマドに言われてもまだ、この子はピンとこないらしい。
確かにその細い腕は、ボールの重さなど感じていないようだが……。
「――今も精霊を憑依させているのですか?」
「はい」
訊かれてルーフェイアは、素直にうなずいた。
タシュアの表情がちらりと――私にしか分からないだろうが――険しくなる。
「普段から精霊に頼るのは、考えものですよ」
しかし言葉には微塵もそれを見せず、いつもと同じ声音だった。
「ルーフェイア、本当に、大丈夫なのか?」
私も心配になって尋ねる。
シエラ学院では確かに精霊の使用を認めているが、それでも上級傭兵か候補生に限られ、それ以下の子供が使うのは禁止されている。
公式には何事もないということになっているが、精霊を使うと稀に精神障害を起こすというのは、公然の秘密だからだ。
それなりに大人の上級隊でさえこれなのだから、小さい子が使った際に「喰われる」可能性は、かなり高かった。
またそうでなくとも精霊には、身体機能を強引に引き上げる作用がある。そんなものを成長途中の小さな子が使って、ただで済むとは思えない。
ルーフェイアが重さを感じなかったのはこのせいだろうが、それだけに心配だった。
「私も、普段から精霊を憑依させるのは、よくないと思うが……」
この子の表情が翳る。
どきっとするような、子供らしくない哀しげな表情。
「いや、その――今までそうしていたなら、大丈夫なんだろうが」
言い繕った私の言葉に、ルーフェイアが寂しげに微笑んだ。
次いでその手に光がわだかまって、2つの石になる。この子が精霊を外したのだ。
「2体も憑依させていたのですか」
「――はい」
タシュアの声は相変わらずだったが、珍しくこの子は泣かなかった。碧い瞳に、その年齢からは考えられない悲しさをたたえながら、手の上の石を見つめている。
なんだかいたたまれなくなって、私は口を開いた。
「その精霊は……炎系か?」
石化させた精霊は、たいていその属性に応じた色を持つ。2つ持っているうちのひとつは、紅みを帯びているから、たぶんそうだろう。
「えっと、炎系の……サラマンダーなんです」
あまり聞かない精霊の名前を、この子は口にした。