Episode:20
「おやおや、ずいぶんと目がいいのですね」
「ンないじめないでくださいよ。それに、行ってみれば分かりますって」
それもそうだと、みんなで通りの角を曲がる。
果たしてイマドの言うとおり、店は「今日と明日、臨時休業します」という札が下がっていた。
「おやすみですね……」
「せっかく、来たんだが……」
「あれ買おうと思ってたのにな〜」
私とイマド、それにルーフェイアから、三者三様の声があがる。
「これは残念でしたね」
タシュアが、見ると意地の悪い微笑みを浮かべていた。ともかく人を困らせる――この場合は「困っている」だが――のが好きなのだ。
「――遊びに行くぞ!」
妙に悔しくなって宣言する。これが2人だけなら買い物に引き回すところだが、後輩たちがいるからその手は使えない。
ルーフェイアの手を引いて歩き出すと、従順なこの子が戸惑いながらもちゃんとついてきた。
「あの、先輩、でも、どこへですか……?」
訊かれて少々考え込む。とっさにああ言ってしまったが、「どこ」と決めていたわけではない。
だがここで下手に黙っていると、またタシュアに突っ込まれるし……。
もう少しだけ考えて、私は答えを口にした。
「キエーグでもしよう」
「あ、俺賛成♪」
付き合いのいいイマドが早速乗ってきた。ルーフェイアは最初から拒否しない。
「タシュア、行くだろう?」
実はこれだけは、私のほうが上手いのだ。
「――ええ」
思惑通りの少しだけ憮然とした表情で、それでもイエスと言った彼に、なんとなく可笑しくなる。
「シルファ先輩、で、どこへ行くんです?」
イマドがまた、気軽な調子で尋ねてきた。このケンディクに何軒もある店の、どこへ行くのかというのだろう。
確かに店によってはいろいろ趣向を凝らしていたりもするが、私はあまり、そういうものには興味はなかった。
「そうだな……。
近いところで、いいんじゃないのか?」
「それもそですね」
ケンディクは観光都市のせいか、娯楽施設の数は案外多い。目立たないのは、街並みを重視した建築規制のせいだ。
もちろんいちばんの売り物は透き通った海、それに豊かな自然なのだが、この街も雨に見舞われることはある。
そうなれば海や周囲の森はとても観光どころではなくなるし、そうでなくても泳ぐのに疲れて「今日は屋内で」という観光客もいないとは限らない。それに今のような季節は、どうやっても泳ぐには寒いだろう。
そんなわけで、この街は楽しむ場所には事欠かなかった。
「あそこ行くんだったら、割引券持ってくるんだったぜ」
「近いところ」ですぐにどの店か分かったのだろう。イマドがぼやいている。
「私が出すから、気にするな。それは今度……友達とでも、使うといい」
「あ、ども♪」
実家からの仕送り?でお金に困ることがないルーフェイアはともかく、この少年の方はお小遣いは、学院からの支給だけのはずだ。それなのにまさか、上級傭兵で給料をもらっている私たち相手に、割り勘というのは可哀想だった。
だいいち誘ったのは、私だ。
それからふと気付いた。
「ルーフェイア、まさかとは思うが……キエーグは、知ってるのか?」
「えぇと、ボール投げて、壊すのですよね?」
どうやら知っていたらしい。