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Episode:02

「シルファ、おそらくこのケーキのことです」

 考えこんでいる私へ、タシュアが説明した。


「このケーキって……これはチョコレートだぞ?」

 間違ってもイカ墨を入れたりはしない。

 だいいち、見れば普通は……。


「……チョコレートって、ケーキに使うんですか?」

――この子は例外だったらしい。


「ルーフェイア、チョコレートが何かは知っていますか?」

「携帯食のキットによく入ってる、黒くて甘くて四角いのですよね?」

 問いにルーフェイアは、無邪気に答えた。しかも「美味しいから好きだ」と言う。

 やれやれとタシュアがため息をついて、この子がきょとんとした顔になった。


「あの、違うんですか……?」

「間違ってはいないんだが……」

 どう説明したものか。


 悪気は無いのだが、どうもルーフェイアは一般常識に疎い子だった。

 知識が必須だった戦闘関係と医療・語学、あとはなぜか歴史に偏っていて、その他の事となると不安なほどに知らないのだ。


「ともかくチョコレートは、もともとはお菓子だったんだ。

 ただそれが非常食に向いていたものだから、キットに入れるようになっただけで……」

「あ、だからおいしいんですね」

 とりあえず納得したらしく、この子がうなずく。


「その調子で、よく今まで平気でしたね」

――いけない。

 せっかく泣き止んだルーフェイアが、また泣き出しそうになった。


「と、ともかく食べたらどうだ? お茶でも淹れるから」

 慌ててまた間に入る。


「コーヒーにしていただけますか?」

「分かった。

――ルーフェイアは何がいい?」

「あ、あたしはなんでも……」

 およそ自己主張とは縁のないこの子は、予想通りの返事だ。


「紅茶でいいか?」

「あ、はい」

 それにしても保護者役のイマドがいない分、ルーフェイアを泣き止ませるのは大変だった。

 なんでもこの子が言うには、いつもこの時期になるとイマドは、親戚のいるドールへ母親のお墓参りに帰るのだそうだ。


「そう言えばイマドは、いつ帰ってくるんだ?」

 なんとはなしに訊く。

「えっと、今日の午後帰ってくるんです」

 嬉しそうにルーフェイアが答えた。

 当人は全く自覚していないのだろうが、やはりイマドの傍がいいらしい。


「じゃぁこのあと、ケンディクまで行くのか?」

「はい」

 その答えを聞いて、私は少し考えこんだ。


「そうしたら……ケンディクまで一緒に行くか?」

 ルーフェイアの表情が一瞬だけ輝く。

 ただ遠慮深いこの子は、またすぐにうつむいてしまった。


「どうした?」

「いえ……その、迷惑、ですから……」

「いいんだ」

 きっぱりと言い切る。


「今日はもともと、このあとケンディクへ出て、買い物をしようと思っていたんだ」

 こう口添えすると、ようやくルーフェイアが安心した顔になった。




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