Episode:18
◇Sylpha
外は午前中にもまして暖かくなっていた。周囲を歩く人々もそれにつられたのだろう、やはりどこか華やいでいる。
会計の方は言葉通り、タシュアが払った。
――その時また、ルーフェイアが泣かされたのだが。
こともあろうに、支払をしようとしているタシュアに「本当に大丈夫か」といったことを、うっかり尋ねたのだ。
まぁ、この子は心配してのことなのだろうが……。
性格はともかく、上級傭兵の中でもトップクラスの実力を持つ彼は、その給料も当然高い。かといって本以外にはさして使うわけでもないから、タシュアはけっこう貯めこんでいた。
だがそれをルーフェイアが知るわけもなく、親切心から言って泣かされた格好だ。
ただもう幾らか時間が過ぎているから、今はこの子も、春たけなわの雰囲気を楽しみながら歩いている。
「なんか面白れぇもん、入ってるといいんだけどな〜」
少し前を歩くイマドがひとりごちた。
それにしても、彼も珍しいタイプだろう。この学院では男女関係無しに料理は教えられるし、何より自分のことは自分でやるのが基本だが、この少年はそういうレベルは遥かに超えている。
しかも5歳からずっとここにいるというのだから、どこで教わったのか……。
「何、買うの?」
「わかんね」
とりあえず行ってみようというのだろう、いい加減な答えを返していた。
隣をとことこと嬉しそうに歩くルーフェイアは体格差のせいで、まるで後輩か妹といった感じだ。
もっとも普段のやりとりもそうだから、そういう風に見えてもおかしくない。
「それにしても、暖かくなりましたね」
「ああ」
先に行く後輩たちを見ながら、駅前の広場を抜けた。目的の店がある市場は港のほうからも行けるが、今はこっちのほうが近い。
――それにしても、可愛いな。
前を歩くルーフェイアの姿は、人形が動き出したようだ。
普段見る制服姿も十分可愛いが、今は薄桃色――この年齢でこの色が着られる子は少ないだろう――の洒落たワンピースに、真っ白なボレロを羽織っている。
どうも同室のロアやクラスメートが、この子を着せ替え人形にして楽しんでいるらしい。だが当人の好きにさせるとまるで少年のような格好ばかりするから、この方がいいのだろう。
これで太刀さえ持っていなければ、言うことないのだが……。
タシュアと同じでこの子も、丸腰というのは落ちつかないらしい。しかも太刀はタシュアの両手剣に比べて携帯が楽だから、学院外でもたいていどうにかして持ち歩いている。
そうやっているうちに、市場となっている広場へさしかかった。
「人が……ずいぶん多いな」
「陽気がいいですからね。それにけっこう、観光客もいるようですし」
「確かに……」
言われてみれば、ツアーらしい集団も時々見受けられた。
と、不意に前を歩いていたルーフェイアが立ち止まる。
イマドが気軽な調子で振り向いた。
「どした?」
私とタシュアも、この子の傍へと行く。
「何か……あったのか?」
「いえ……」
ルーフェイアの言葉は歯切れが悪かった。
「はっきり言いなさい。言わずにわかってもらおうなど、虫が良すぎますよ」
だが珍しくタシュアのきつい言葉にも泣かず、ただこの子は首を振る。