Episode:15
◇Tasha Side
「――すまない。
そうしたらイマド、もらっていいか?」
「どうぞ」
仔竜のカードを手に入れたシルファは、嬉しそうだった。普段は気丈にしているが、やはり女子ということなのだろう。
時折こうやって見せる彼女の無邪気な姿は、決してタシュアは嫌いではなかった。
テーブルの向こう側では、イマドがぞんざいな調子でルーフェイアの頭を撫でている。
(気付いていないのですかね?)
どう見ても「相手をしている」というよりは「適当にあしらっている」といった感じなのだが、やられている当人は満足しているようだ。
もっともこの後輩が、ルーフェイアを泣かしているのは見たことがない――どうやったらそうなるのかは不思議だ――から、これで十分なのだろう。
それにしてもイマドは、案外食わせ物だ。
この間ルーフェイアから得たカードを、どうにか取り返そうとしているのは気付いていたが、まさかこういう手段で来るとは予想しなかった。
見た目の好青年ぶりとはうらはらに、その性格はけっこうしたたかと言える。またそうでなければ、ここまで上手く交渉できないだろう。
(まあ、構いませんが)
実を言えばタシュアは、別段雪の女王のカードに思い入れはない。
たまたまルーフェイアが使ってきたカードがそれだったというだけで、コレクションするつもりなどさらさらなかった。
「カードは今持っていませんから、学院へ戻ってから渡します。
それでかまいませんね?」
「ええ、ぜんぜん」
そう答えながらこの後輩は、時々ルーフェイアの長い金髪を、撫でるついでに軽く引っ張っている。
だがそれでも、ルーフェイアの方は嫌がる様子もなかった。
(――よく懐いたこと)
状況を理解しているのかいないのか、ともかくこの子は素直過ぎる。
「先輩すみません、ありがとうございます……」
何度言われようがこうやって、自ら墓穴を掘るのだ。
「言う相手が、違うと思いますがね」
「ご、ごめんなさいっ!」
また少女が瞳に涙を浮かべて、べそをかきはじめる。
(学習能力がないのですかね?)
確かにルーフェイアは学院の学年主席だが、全体的に応用力に欠けていた。
その上自主的な行動力も乏しい。同じ育ちかたをしているタシュアから見れば、よくこれで戦場を生き延びてきたとしか言いようがなかった。
もっとも任務にこの子を同行させたシルファの話では、戦闘となるとやはり群を抜いているという。また先日も、新型の人形をイマドと2人で倒したらしい。
(どこまでいっても極端ということですか)
どう育てばこうなるのかは、もはや謎としか言いようがないだろう。
「ほら、こぼすなよ? ンな端に置くなって」
「大丈夫だから……」
見ればまたルーフェイアを、イマドが甘やかしていた。
「イマド、少しは考えたらどうです。
24時間、あなたがついているわけにはいかないのですよ」
呆れながら忠告する。
ともかく彼女の母親といい従姉といいイマドといいシルファといいロアといい、ルーフェイアの周囲はどうも甘やかし過ぎだ。
「24時間って――まぁ、それでもいいですけど」
「ルーフェイアには、まだ無理だと思うが……」
何気ないシルファの言葉に、一瞬場が凍りついた。
「先輩、いきなりそゆこと言います……」
「え、あ、いや、その……」
シルファが口を滑らせたのに気が付いて、しどろもどろになる。