Episode:14
「どした?」
「だってそれ、さっき……」
おもしろ半分にからかうと、そこまで言ってルーフェイアがうつむいた。
考えてるのは多分、自分が欲しいのが半分、先輩に譲らなきゃいけないってのが半分ってとこだ。
――タシュア先輩がいじめたくなる気分、分かるよな。
なにせ困ってるこいつ、妙に可愛い。
ってもこれ以上やると、間違いなく泣きだしちまうだろう。タシュア先輩はそれが目当てでいじめてっけど、俺はそういう趣味はない。
「心配するなって。2枚あんだよ」
「あ、なんだ……」
別のを出して渡すと、こいつが思いっきりほっとした表情になった。
ついでに頭撫でてやると、もっと嬉しそうになる。
「だが、いいのか? 珍しいカードなんだろう?」
今度はもう一枚を持ってる、シルファ先輩が尋ねてきた。けっこう気にしてるらしい。
「確かにレアですけど。
――あ、そしたら『雪の女王』と、交換ってことで」
「え、そう言われても、そのカードは私は……」
先輩が言いよどむ。
実言や俺も、シルファ先輩が持ってるとは思っちゃいなかった。
なにせこのカードも、けっこうレアだ。だから、持ってるのはよほどのプレイヤーか、収集マニアの連中になる。
けど思惑通り、タシュア先輩がこっちに鋭い視線を向けた。
「そういう魂胆ですか」
隣でルーフェイアのヤツが、自分が言われたわけでもないのに身を硬くする。
「タシュア、持っているのか?」
「ええ、まあ」
先輩は曖昧に答えたけど、持ってないわきゃない。なにしろこないだルーフェイアから巻き上げたカードってのが、その雪の女王だ。
「先輩、こいつにあのカード、返してやってもらえます?
この仔竜は好きにしていいですから」
「――いいでしょう」
上手いこと交渉が成立した。
「タシュア、なにもそこまでしてくれなくても……」
「かまいませんよ。別に私は、集めてるわけではありませんから」
「だが……」
さすがに気が引けたらしい。シルファ先輩が必死に遠慮する。
だけど。
「いいんです」
きっぱりそう言われて、黒髪の先輩はそれ以上言うのをやめた。
さすが長年?付き合ってるだけあって、タシュア先輩の性格はよく把握してるらしい。
「――すまない。
そうしたらイマド、もらっていいか?」
「どうぞ」
仔竜が手に入った先輩、けっこう嬉しそうだ。
――けどタシュア先輩、少し変わったよな?
前からシルファ先輩にゃ甘かったけど、この頃はなんつーか「甘やかしてる」って感じだ。
もっともこの先輩の場合やたら厳しいから、これでやっと差し引きゼロってとこだろう。
「カードは今持っていませんから、学院へ戻ってから渡します。
それでかまいませんね?」
「ええ、ぜんぜん」
俺も気楽に答えた。なにせこの先輩が約束を破るってコトは、有り得ねぇし。
「先輩すみません、ありがとうございます……」
戸惑いながらルーフェイアが礼を言った。
って、ここでそれ言った日にゃ……。
「言う相手が、違うと思いますがね」
「ご、ごめんなさいっ!」
あ、やっぱり。
予想通りに突っ込まれて、またこいつの瞳に涙が浮かぶ。
――ホント、相性いいよな。
隣でべそかいてるルーフェイアの頭をテキトーに撫でながら、俺はなんとなくため息をついた。