Episode:120
しばらく考えて、あたしは載っていたミルクだけを手にとった。
それからまた恐る恐る、先輩に話しかける。
「先輩、これ……食べませんか……?」
「いただきます」
残りもので怒られるかと思ったけど、拍子抜けするくらいあっさり、先輩があたしの食事を持って行った。
そのまま黙って食べ始める。
――お腹、空いてたのかな?
先輩はいつもたくさん食べるから、病院の食事じゃ足りなかったのかもしれない。
どっちにしても嬉しくなって、あたしはミルクに口をつけた。
ゆっくり……ゆっくり、飲んでいく。
自分の身体のペースに合わせただけだったけど、かなりゆっくりだったらしい。どうにか飲み終わる頃には、先輩はだいたい食べ終わっていた。
また、眠くなる。
空になったカップをサイドテーブルに置いて横になると、目を開けているのも辛かった。
でも少し、目を開けたまま頑張ってみる。
「ルーフェイア、何をしているのです」
「え、いえ……」
もともと、あんまり意味は無い。
それを見透かしたように先輩が言った。
「早く寝なさい。その状態で起きていても、何にもなりませんよ」
「す、すみません!」
慌てて目を閉じる。
想像以上に疲れてたのか、すぐにあたしは眠ってしまった。
次にはっきり起きた時、辺りは明るかった。
視界にタシュア先輩の姿がを見つけて、なんとなく挨拶する。
「……おはよう、ございます……」
「もう午後です」
「――え?」
びっくりして時計を見ると、もうお昼はとっくに過ぎていた。
――そんなに、寝ちゃったんだ。
自分で自分に驚きながら、そっと動いてみる。
昨日はあんな調子だったけど、普通じゃ考えられないくらい寝ただけあって、だいぶ動けるようになっていた。
ゆっくり起き上がる。
先輩は椅子に腰かけ――寝てなくていいんだろうか?――て、本を読んでいた。
話し掛けたら邪魔をしてしまいそうで、黙って辺りを見回す。
あ、ここ……。
今ごろになって、自分がどこにいるのかやっと納得した。
分かってみればどうということはなくて、あたしがいるのはタシュア先輩が入院?した病室だ。2人部屋で、確か片方ベッドが空いていたから、そこへ入れられたらしい。
でも、そのほうがよかった。
個室にひとりっきりとか、大部屋に知らない人といるよりは、このほうがずっといい。
だけどこうして見ると、テロ事件があったなんて信じられないくらい、病院の中は落ち着いていた。
あの子たちも、こんなふうに穏やかだといいんだけど……。
あとで看護士さんに訊こうと思いながら、あたしはまた横になった。昨日が昨日だったから、まだすぐに疲れるみたいだ。
――これじゃ、いつ帰れるんだろう。
少し心配になる。
みんなの顔が見たかった。シーモアやナティエスやミル、それにイマドの……。
と、病室の扉がノックされる。