Episode:12
「魔力石かなにか……?」
「ンなわけねぇって。
えーと……あ、これだこれ」
箱の中から、目当てのものを探し当てて出してやる。
こいつの顔に笑みがこぼれた。
――これが可愛いんだよな。
ルーフェイアのやつは素直で無邪気だから、なんかちょっとやっただけですげぇ喜ぶ。
「このカード、可愛い……♪」
「何のカードです?」
「え……」
何気なくタシュア先輩が訊いてきたとたん、慌ててこいつがカードを、胸に抱くようにして隠した。
しかもそのあとが傑作だ。
「ルーフェイア、見せてくれないか?」
「あ、はい」
シルファ先輩の方にはこいつ、にこにこしながらあっさりカードを差し出す。
もうこれには俺もシルファ先輩も、横を向いて笑いをこらえるだけで精一杯だった。
「やれやれ、嫌われたものですねぇ」
「先輩がこの間こいつからレアカード巻き上げたから、警戒してるんですよ」
「巻き上げたとは聞き捨てなりませんね。
あれはきちんと勝負をした上で、勝ったから頂いたまでです」
――あれを「きちんと」って言うか、普通?
ルーフェイアにやったのは、けっこう前からあるトレーディングカードの一枚だ。何年か前から学院の中で、かなり流行ってる。
で、勝負して勝てばもらえんだけど、こいつこないだタシュア先輩に負けやがった。
じつ言やルーフェイアは、そんなに弱くなかったりする。クラス内じゃ屈指の強さだ。なんでも同室のロア先輩がめっぽう強い人だったとかで、カードを一揃いもらった上に、一から教えてもらったらしい。
それにこいつも飲みこむまではともかく、分かっちまえば今度は忘れない性格?してる。ルールも今じゃかなり複雑でもきっちり把握して、しっかり利用すっから始末に追えない。
けど、タシュア先輩となるとなぁ……。
「先輩相手にルーフェイアが、勝てるわきゃないじゃないですか」
もうこの人は、「普通」の範疇は外れてる。
「なのに勝負すんですから、巻き上げてんのと一緒ですよ」
「勝負をすると言ったのは、ルーフェイアです」
毎度のことながら、この先輩は絶対自分が悪いとは言わない。
「話には聞いていたが、可愛いな。初めて見た」
シルファ先輩のほうは俺らのやりとりより、このカードが気に入ったみたいだ。
――まぁ、女子が欲しがるカードだよな。
やっぱ気になんのか、タシュア先輩がシルファ先輩の手もとを覗き込む。
「ほう、仔竜ですか。確かに珍しいですね」
ほんと言うとこのカード、まるっきり枚数がないってわけじゃないんだとか。でも女子が秘蔵しちまうことが多くて出回らないから、結果的にかなりレアになってる。
「それにしても、良く手に入ったな」
「真ん中の姉貴――って従姉妹ですけど、かなりのカードプレイヤーなんですよ」
このゲームはアヴァンのほうが本家で、姉貴ときたらガキの頃から、オモチャ代わりにカードやってたっつーツワモノだ。
で、この姉貴に頼んどくと、けっこうレアカードを取ってきてくれる。
「あと叔父さんもマニアで、しっかり集めてますし」
もっともこっちはプレイはさほどしなくて、友達やら患者――一応開業医――が持ってきてくれるらしい。