Episode:119
「このまま床にいられては、私が医者や看護士に文句を言われかねませんからね」
「すみません……」
でもどういうわけか、先輩は何も言わなかった。
――どうしてだろう?
考えてみたけど、分からない。
結局それは諦めて、あたしは違うことを確かめることにした。
「あの、先輩……」
恐る恐る声をかける。
「なんです」
それだけで、叱られなかった。
少し勇気付けられて、残りのことを口にする。
「その……ここ、どこですか……?」
あたしの言葉に、先輩が真っ直ぐ視線を向ける。
「ご、ごめんなさいっ!」
「謝ってどうするのです。
――病院ですよ、ここは」
言われてもまだ、ピンとこなかった。
「びょう、いん……?」
なんであたし、そんなところに……。
「昨日の騒ぎを、覚えていないのですか?」
まだどこかぼんやりしてる頭で、必死に考える。
昨日は確か、イマドがアヴァンから帰ってきて……?
そして、思い出した。
「あ、あの子たちっ!」
あたしが倉庫を出たときはみんな大丈夫だったけど、その後無事、保護してもらったんだろうか?
「先輩、あの子たちは?!」
「全員無事です」
簡潔だけどいちばん聞きたかった答えに、ほっとする。先輩がそう言うなら、大丈夫だ。
あとは後遺症がないことを祈るだけだけど……こっちは詳しいことは、時間が経たないと分からない。
でも、みんなケガもなく済んだのが、なによりだった。
――動けるようになったら、会いに行こうかな?
ふと、そんなことを考える。
けどあたしの顔を見たら、あの恐怖を思い出しちゃうかもしれないし……。
そうやっていろいろ考えて、もうひとつ分からないことを思い出した。
「彼女」と代わったあとを――あたしは、知らない。
「……あの……」
思い切って声をかける。
「今度は何です」
「………」
冷たい声に、何も言えなくなった。
「黙っていては、通じませんよ」
「その、すみません、だから……」
言われて必死に言葉を繋げる。
その間、不思議とタシュア先輩は何も言わなかった。
「……あのあと、どうなったんですか?」
「『あの』では、どの時点以後を差しているのか分かりかねますね」
「ごめんなさい……」
また泣きたくなる。
どうしてあたし、いつもこう……。
さすがにもう先輩の顔は見られなくて、反対側へ顔を向けた。
けどそこへ、もう一度先輩の言葉がかかる。
「そこの食事は、どうするつもりです」
「え……?」
びっくりして顔を巡らすと、確かにサイドテーブルの上に、食事が置かれていた。
――どうしよう。
まだ身体も動かないくらいだから、食べたくない。