Episode:114
◇All
イマドは2段おきに階段を駆け上がった。少し遅れてシルファとタシュア――これは単なる気まぐれだろう――も、上がってくる。
途中途中の踊り場に設けられた窓から、時ならぬ真昼の光が差し込んでいた。ルーフェイアと入れ替わったかの精霊が、呪石に対処しているらしい。
そのまま3人は機械室や資料室の並ぶ最上階を通り過ぎ、屋上へ続く扉の前に立った。
「――開けとけよっ!」
がっちりとカギがかけられた扉に悪態をつきながら、イマドはキットからピッキング(鍵開け)用のツールを取り出す。
彼が鍵穴にツールを差し込んでいじると、ものの30秒ほどで鍵はあっさりと降伏した。
かちりという音と共にシリンダーが回り、次いで扉が開く。
「ルーフェイアっ!!」
屋上へと飛び出してイマド叫んだが、答えはなかった。
だが依然、煌々たる光は差している。
「どう、なったんだ……?」
「私に訊かれても困ります。まぁ呪石の件が片付いたのは、間違いないでしょうが」
そんな会話を交わすうち、徐々に光が薄れ始めた。
「――ほう」
虚空を見ていたタシュアが、面白がるような声をあげる。
シルファも驚きの表情になった。
ゆっくりと、少女の形をした白光が降りてくるのだ。
「あれは、私と同じ……?」
シルファの唇から言葉が漏れた。自分が似たようなことをするだけに、直感的に感じ取ったのだろう。
生まれ持った資質も絡んではくるが、精霊と所有者との相性が飛びぬけていい場合、通常の念話を遥かに超えて憑依状態に持っていくことが出来る。
シルファも所有の精霊ヴァルキュリアとはこれが可能で、いざと言う場合の奥の手になっていた。
「微妙に違うようではありますがね」
タシュアが横から言葉を添える。
イマドはその間無言だった。
ただ真っ直ぐに、舞い降りてくる「それ」へ視線を向けている。
やがてそれは、床から身体半分ほどの高さでぴたりと静止した。
ルーフェイアであったはずの身体から、光が舞い上がり零れ落ち、揺らめく。
「乗っ取られた……というところですか」
シルファが憑依状態となった場合も身体は淡く光を放つが、目の前の「それ」は、光が少女の姿を取っているという有様だ。
だが「それ」は答えず、辺りに沈黙が降りる。
深い碧に輝く瞳が3人を一瞥した。
不意に言葉が放たれる。
「――相変わらず、か」
同じ声でありながら、その響きはルーフェイアのものとは似ても似つかなかった。あの少女は繊細で儚げだが――この存在の口調は傲然たる響きを持っている。
「グレイスも大したものだ。
人間など――早々に見捨ててしまえばいいものを」
「では、そのくだらない存在に手を貸すあなたはどうなのです?」
タシュアがすかさず、毒舌を返した。
「手を貸すつもりはない」
「ほぅ、では、今の所行は手を貸したわけではないと?」
「私はグレイスの望みには従う。ただそれだけだ」
人とは異なる存在であるがゆえだろう、彼女も淡々と言葉を返す。