Episode:112
「――借りるぞ」
俺も黙って差し出す。燃えてるヤツにとどめ刺すにゃ、やっぱ長剣のほうがいい。
先輩が剣を振り上げる。
――って待てっ!
こいつが、懐から出そうとしてるの……!!
容赦なく先輩がとどめを刺したにもかかわらず、石が淡緑色に輝き始めた。
俺とどっからか来たタシュア先輩、それに倉庫から出てきたルーフェイアの言葉が重なる。
「やべぇっ!」
「――シルファっ!」
「いけない、その石っ――!!」
ルーフェイアのヤツが言うとおり、こんなもんが発動しちまったら良くてフロア全体、悪けりゃ病院自体が吹っ飛ぶはずだ。
「早くここから離れなさい、呪石です!」
「なにっ?!」
まずルーフェイアのやつが、続いてシルファ先輩が、手早く魔法を唱えた。
「ルス・バレーっ!」
「エターナル・ブレスっ!」
その間に俺は前へ出る。
――出来るか?
いや、ムリでもやるしかねぇ。
石の魔力に俺を合わせて、強引に押さえこんだ。
淡緑色の光が不安定に明滅し始める。
どういうわけか俺は、生まれつきオプション?が幾つかついてた。例の念話能力もそうだ。
なかでもいちばん重宝してるのが、魔力を外からコントロール――まぁある程度だけだけど――するやつだった。
っても相手がこれだけデカい魔法じゃ、瀬戸際でほんのちょっと食い止めんのが精一杯だ。
なにをどう考えたって、そう長くはもたねぇだろう。
「早く、今のうち……!」
タシュア先輩がなんだか聞いたことのねぇ魔法を唱え始めた。
「無念の声が響く闇の底にて、其は黄泉の回廊を迷わん。開け、黒き審判の門――」
けど、なかなか発動しない。もともと手間取る魔法なのか、それとも相手が発動しかけのせいなのか……。
俺のほうの体力と魔力が、凄ぇ勢いで削られてく。
立ってるだけで、ほとんど目いっぱいだ。
「ダメだっ、もう持たねぇっ!!」
そん時だった。
――ルーフェイア?
いきなりこいつが、俺と石との間へ飛び出す。
「な――?!」
ルーフェイアのやつが動いたことより、一瞬見せた表情に俺は凍りついた。
――あいつじゃねぇ。
見かけはそのまま、でも完全に中身は別モン……。
不意にその姿が、石と一緒に消えた。同時に俺もいきなり、かかってた圧力から開放される。
「ルーフェイアっ!!」
膝をつきそうになりながら、必死にあいつの気配を探った。
どこにいる? どこへ行った……。
「――上かっ!」
遥か高みにあいつを見つける。
倒れそうだったのも忘れて、俺はナースステーション飛び出して、階段を駆け上がった。