Episode:11
◇Imad
――ホント、よく泣くよな。
やっとついたその店で、隣のルーフェイアのヤツを見ながらつくづく思った。
まぁもとが大人しい性格で、言い返すより泣くやつだから、しょうがないっつやしょうがないんだろうけど。
ただそれを差し引いても、タシュア先輩とは相性が良すぎるらしくて、下手すりゃ何分かおきに泣かされる。
その上何をどうしたのか、それでも懐いてつきまとうから、延々と泣かされっぱなしってやつだった。
――もっともこの先輩、ルーフェイアは無視しねぇからな。
そこら辺考えると、一応可愛がって?る範疇に入るんだろう。
「ルーフェイア、あとはあなただけですよ」
「すみません……」
今も可愛がってんだかいじめてんだか、ともかく相手だけはしてるし。
けどメニュー選んでるこいつに突っ込んだら、尚更遅くなるような……。
なにせルーフェイアのヤツの食べ物音痴――もう料理音痴ってレベルじゃない――はかなり致命的で、メニューを見せてやってもどれがなんだか分かっちゃねぇ。
今も案の定、メニューとにらめっこしながらひたすら悩んでやがった。
「おい、貸せよ」
「あ、うん」
けっきょく見かねてメニューを取り上げる。
「何が食いたいんだ? 肉か、魚か?」
「えっと、お魚」
「オッケー、んじゃあとは、なんか野菜とスープでいいな」
「うん」
もっともこいつの場合、好き嫌いがないから楽だ。
――味もわかってねぇだろうけど。
戦場で育ったのが良かったのか悪かったのか、ともかくこいつは「生き延びる」のが最優先で、料理の味やら素材には一切文句言わない。
それこそ腐ってなくて食えりゃ、なんでもいいってやつなんだろう。
けど、この外見でそれっつーのも……。
「そうやって甘やかすから、いつまで経っても子供のままなのだと思いますがね」
「でも俺、メシ遅くなるのヤです」
突っ込んできたこの先輩に、思わずホンネを言った。
だいいちルーフェイアに選ばせた日にゃ、どんだけ待たされるか分かったもんじゃねぇし。
「イマド、ごめん……」
「ですから謝っている暇があったら、早く選びなさい」
――キリねぇの。
この2人だけおいといたら、日がな一日こうやってんじゃねぇのか?
どっちにしてもこのままじゃ埒があかねぇから、俺はさっさとウェイトレスを呼んだ。
ようするにこの2人はじゃれてるだけ――ルーフェイアはそう思ってねぇだろうけど――なワケで、どこにも実害がない限りは見なかったことにして、話を進めるに限る。
「シルファは何にしたのですか?」
案の定この先輩は、泣かせたルーフェイアのことなんかまるっきり知らん顔で、しっかり注文を始めた。
「こっちも頼むかんな?」
「うん」
俺もこいつの分と合わせて注文して、ようやく待つ体制になる。
にしてもガキんちょもいないのに、なんだってこんなに時間がかかるんだか……。
それから思い出した。
「どこ入っちまったかな?」
持って帰ってきたバッグの中を漁る。
「どうしたの?」
「えーと、ちょい待ってろな」
どうにか俺は、荷物の中から小さい箱を引っ張り出した。