Episode:109
◇Rufeir
ひざに顔をうずめていたあたしは、そっと視線を上げた。
周囲を覗う。
小さい子たちは、睡眠薬のせいでみんな眠っていた。これなら派手に動いても、この子たちにとんでもないものを見せないで済むだろう。
時計の針は、もう11時の2分ほど前を差している。
そっと手を動かして、太刀の柄にかけた。
息詰まる時間。
確かなのは、ここにいる見張りを倒さなければ、この子たちの命が危ないということだけだ。
3人とも結局ミルクは飲まなかったから、全力で行くしかない。
犯人たちに気づかれないよう、じりじりと体勢を変えた。
ほんの僅かのはずなのに、とても長い間待って……。
――爆発音。
「なんだ? 誰か見て――」
その時にはもう、あたしは魔法を唱え終わっていた。
「――ホズ・ブリンドっ!」
闇を呼ぶ呪文に、3人が視界を奪われる。
「な……?!」
見張りがパニックを起こした時にはもう、あたしは抜刀して立ち上がりかけていた。
ためらうことなく刃を振り下ろし、次いで鳩尾へ切っ先を突き入れる。
――まず、ひとり。
絶叫が上がり、リーダー格の見張りが倒れた。
「誰だ、誰がやられたっ?!」
「ちきしょう、明かりを――っ!!」
太刀を引き抜きながら振り向いて、先に遠いほうの見張りを薙ぎ払う。相手の両腕が払われ、腹部が裂けた。
さらに返す刃を振り下ろして、残った見張りを首あたりから袈裟切りにする。
最後にひとりづつ、念のために心臓を突いて――それで終わりだった。
泣きたくなる。
――なんで、こんなことばかっり上手いんだろう?
3人の大人を倒すのに、僅かこれだけなんて……。
それからあたしは首を振った。
今は……まだ終わってない。
もう一度部屋を振り返って、危険がないことを確かめる。
――大丈夫。
見張りは全員絶命している。ここは後は、看護士さんたちに任せるだけだ。
あたしはそっと扉を開けて、倉庫を出た。すぐ隣のナースステーションへと向かう。
フロアでは次々とクリアの声が上がっていて、上級傭兵の先輩たちが順調に制圧しているのが分かった。
その中、急いでナースステーションに入り込む。
最初に目に入ったのは、シルファ先輩だった。何故かイマドの長剣を振り上げている。
しかもどういうわけか、相手にしているテロリスト――リーダーだったはずだ――には炎がまとわりついていた。
――イマド、かな?
なんとなく思う。
彼は普段はそんなふうに見えないけど、戦闘となると容赦がない。
その時、頭の中で警鐘がなった。
何か、大変なことが――。