Episode:107
「あ、わ……」
「おやおや、最近のテロリストは人の言葉も喋れないようですね」
冷たい死神の笑みが、彼の顔にのぼる。
「――最後のゴミも、片付けておきますか」
「うわぁっ!」
たまらず男が叫び、ようやく銃をタシュアに向けて構えた。
必死に照準を合わせている。
――だが。
「どこを見ているのです?」
「!!」
既にタシュアの姿はそこにはなく、間近で銃身を掴んでいた。
「物事は手早く片付けないと、命取りですよ」
言いながら、手加減なしの蹴りをテロリストの腹部へ叩き込む。
身体の急な動きに着いていけなかったのだろう、引き金にかけられていた指がちぎれ、男は後方へと吹っ飛んだ。
ちょうど後ろにあった機器類に突っ込んで、動かなくなる。
「すみませんね。少々具合が悪くて、力の加減が効かないものですから」
もっとも言われた相手は聞くどころではない。手ごたえからして、内臓の1つや2つは破裂したはずだ。
「……張り合いがありませんね」
あっさりと倒されてしまったテロリストたちを見ながら、タシュアがつぶやく。彼にかかっては、テロでの突入も暇つぶしか憂さ晴らし程度だ。
その時になってようやく病棟内に爆発音が響いた。予定通り上級傭兵が突入を開始したようだ。
少し奥のほうでは、病院のスタッフたちが蒼白になっていた。容赦のないタシュアのやり方に度肝を抜かれたらしい。
(――まぁ、仕方ありませんか)
向こうは助けるのが仕事だ。いくら必要性を説明したところで、こういった行為は受け入れられないだろう。
「誰か、ロープをお願いします」
声をかけられてやっと、スタッフが我に返ったらしい。どこからか出された紐が、おそるおそるといった調子で差し出された。
「ありがとうございます」
「い、いえ……」
ずいぶんな怯えようだ。
(別に無関係な人間に、何かしたりしないのですがねぇ)
とはいえこれも、今言ったところで理解はしないだろう。
そんなことを考えながら、テロリストたちを縛り上げる。
「上級傭兵が来たら、引き渡してください。それとできれば、麻酔漬けにでもしておくように。
――隠し持った武器で何をするか、分かりませんからね」
スタッフたちを脅しておいて、タシュアはナースステーションを出た。
廊下を抜けてもうひとつの病棟へと向かう。
「――おやおや」
シルファが制圧しているはずのナースステーションは、思った以上の惨事になっていた。リーダーらしき男が火だるまになっている。
「イマドっ!」
彼女が鋭い声を出しているところを見ると、やったのはイマドの方らしい。
だがこの後輩も、見た目より遥かに食わせ物だ。




