Episode:106
◇Tasha Side
シルファとイマドが出て行った病室で、タシュアは軽く身体をほぐしていた。妙な経緯でずっと寝ていたために、いまひとつ身体の切れがない。
(――なんともないのですがねぇ)
たかが熱を出しただけだというのに、シルファは騒ぎすぎだ。
とは言え点滴が功を奏したのだろう、その熱も今は下がっていた。
念のために、身体の動きを点検する。
(問題なさそうですね)
完全とはいえないが、まずまずだった。少なくとも3人程度を相手にするには、なんの心配もない。
(この騒ぎが片付いたら、帰りますか)
熱が下がった以上、医者とてすることはないはずだ。それにこのどさくさなら、学院へ戻ってしまってもどうということはないだろう。
――それにしても。
いくら熱があったとはいえ、倒れるなど論外だ。しかもシルファだけならまだともかく、後輩たちまでいる前で倒れているのだから、我ながら呆れるしかない。
以後こんな真似はするまいと――それでもシルファは気づくだろうが――思いながら、タシュアはもう少し身体を慣らした。
時間が過ぎる。
(そろそろいいですかね?)
まだわずかに間があるが、タシュアは動き始めた。病室を出て、ナースステーションのほうへと歩いていく。
途中、誰も彼を見咎めなかった。
(まったく、何のための見張りやら)
もっともこれは犯人がどうこうと言うより、タシュアが上手と言うべきだろう。
なにしろかつて戦場にいた頃は、敵の鼻先をかすめて移動しては背後に回るようなことをやっていたのだ。この程度の見張りの目を躱すなど、造作もない。
そのまま真っ直ぐナースステーションへ向かい、構わずタシュアは中へ入っていった。
もう見張りの交代が出たあとのため、犯人とおぼしき男たちは3人だけ。他に病院スタッフもステーション内にいたが、あまりにも何気なく入ってきた彼に、誰も反応しきれない。
タシュアは音も気配もなく、たまたま2人並んでいた犯人たちへ、やや後方から近づいた。
至近距離まで来て、ようやく相手が反応する。
「お、おま――?!」
皆まで言わせず、容赦のない手刀の一撃が敵の首に見舞まわれた。
鈍い音が響く。
「おや、これしきで折れましたか?
テロリストなどと大層なことを言う割には、ずいぶんとヤワですこと」
平然とうそぶく様子に、残る犯人たちがパニックに陥った。
「き、貴様――」
「あなたにそんな呼ばれ方をする筋合いは、ありませんね」
言い終えた時には既に、抜き手が相手の両眼に入った後だ。
更に犯人が慌てて顔面を押さえようとしたところを、空いている手で無造作に腕を掴み、折る。
再び鈍い音がして、肩が砕けた。
「さて、残るはひとりですか」
喚きながら暴れる敵を、粗大ゴミのように放り出す。
そして尚も悠然と振り返るタシュアに、最後の犯人が後ずさった。