Episode:103
「せ、先輩!」
「こうしないと……動けない」
借りたものにこんなことをするのは気が引けるが、そのままでは間違いなく、動きが制限されてしまう。
それでもなんとなく気落ちしながら、私はベッドに腰掛けた。
――後で、謝らないと。
状況が状況だし、あとで新しいものを返せるのは分かっているが、他人の物にこんなことをするのはやはり楽しくない。
その私へ、おそるおそるといった調子でイマドが声をかけた。
「あの〜」
「――なんだ」
自分の声が、少し尖っているのを感じる。
「いや、その……なんつーか、えーと……」
後輩の言葉は、妙に歯切れが悪かった。
「はっきり言ってくれないか」
「『はっきり』っつわれても……」
まだ言おうとしない彼に、少々呆れる。
――これから、突入があるというのに。
だが、すぐに思い直した。
イマドは確かに学院生だが、上級傭兵どころか候補生でさえない。当然、こういった場合の訓練など、受けているわけもなかった。
なのに『落ち着け』というほうが、ムリというものだろう。
「問題があるなら、今のうちに言ってくれ。些細なことが――命取りになる」
「――やっぱ、いいです」
「?」
今ひとつ、意味が飲み込めなかった。
「何かあってからでは、遅いぞ」
「けど、言ったらよけい命取りになりそうなんで」
尚更分からない。
私がなおも訊き出そうとすると、イマドはいやに慌てて言い繕った。
「その、終わったら言いますって。たいしたことじゃないんで」
「そうなのか? それなら、いいんだが……」
何か引っかかる。だがそれ以上聞いても後輩は答えようとせず、些細なことだと言い張った。
――まぁ、いいか。
そこまで言うのなら、あとでいいことなのだろう。
なんとなく息を吐いて、視線を落とす。
と、何かの音がして、慌てて私は顔を上げた。
「な、何をしているんだ!」
「何って……写影ですよ?」
目の前で後輩が、写影機を構えている。
「ダメだっ! こんな、こんな格好……」
慌てて隠したが、イマドは気にしなかった。
「いいじゃないですか。めったに着るもんじゃないし」
「だからだっ!」
あまりにも無神経すぎる。
だいいち私がこの制服を着るのを、嫌がっていたのは見ていたはずだ。
「でも、この写影見たら、タシュア先輩喜びますよ?」
「……え?」
思いもしなかったことを言われて、一瞬思考停止する。
その間にまた、後輩が1枚撮った。
「てか先輩、カノジョの写影もらって、喜ばない男とかいませんって」
「そ、そうなのか?」
考えたこともなかった。
私はこんな格好はイヤで仕方ないが……タシュアは喜ぶのだろうか?