Episode:102
「それですみません、病棟の様子を……教えて、いただけませんか?」
だいたいのことは例の主任から聞いているが、あくまでも間接情報だ。ここの担当から直接聞くのに、勝るものはない。
「病棟の様子……でしたらいっそ、私と一緒に回りますか?」
「え、できるんですか?」
驚いて聞き返すと、この人がニコニコと笑って言った。
「だいじょうぶですよ。私ね、騒ぎになってから何度も、病棟の見回りしてますから。
だってほら、患者さんが心配でしょう?」
患者思いといえばそれまでだが、この状況下で見回りが出来る精神力に舌を巻く。
「そうしたら……お願い、できますか?」
「はいはい、喜んで。じゃぁ行きましょうか」
連れられて、病室を出る。
この人はもう慣れているらしく、犯人に会釈しながら、手早く病棟を回っていった。
その後ろから歩きながら、敵の配置を確認する。
――言っていた、とおりだな。
向こうの病棟の主任から聞いてはいたが、ほぼそのままだ。
廊下に4人、昇降台前にそれぞれ1人づつ。加えて両方のナースステーションに、3人づつと、子供たちを見張っている3人。
これに交代要員も加えると、そうとうな数になるはずさ。
考えながら歩くうち、気づけば元の場所に戻ってきていた。
「じゃぁあなた、悪いけどあの患者さん、いつ急変するか分からないから頼みますね。
なにしろ、持病のある方だそうだから」
「え?」
戸惑う私に、この士長がいたずらっぽくウインクする。
瞬間気がついて、私は言葉を返した。
「すみません、何かあったら……応援を呼びます。
みなさんは、控え室の中で」
「ええ」
もう一度微笑んで、士長は病室を出て行った。
「俺、もしかして重病人ってヤツですか?」
「そうらしいな。おとなしく寝てたほうが、いいんじゃないか?」
さっきタシュアにいろいろ言われたのが、どこかで引っかかっていたらしい。後輩につい、そんなキツいことを言う。
「んじゃ俺寝ますんで、あとお願いします」
「いや、それは違うだろう……」
自分でも少々情けないのだが、思わずそんな否定の言葉になってしまった。しかもそれ以上、反論の言葉が見当たらない。
こんな格好をするハメになったり、後輩に言い負かされてしまったり、なんだか今回は散々だ。
疲れてため息をつきながら、イマドに言う
「――カーテンを、閉めてくれないか?」
「へ? いいですけど」
イマドにカーテンを閉めてもらったところで、タシュアから借りた短剣を手にした。
鞘を外す。
「先輩、まだちょい早いんじゃ……」
「いや、そうじゃない」
ベッドの傍らへ降りて、借りた白衣を見た。
「先輩?」
イマドが怪訝な顔をする。
それには答えず、私は短剣を裾に当てた。
一気に切り裂く。