Episode:101
部屋はもともとは、子供たちが入院していたようだった。
2人部屋で、空いていたらしいベッドが1つ。残りの1つには、おもちゃやぬいぐるみが乗っかっている。
――大丈夫だろうか。
本当ならこのベッドで毛布にくるまって眠っているはずなのに、その子たちは犯人の手元だ。
その恐怖と心細さを思うと、いてもたってもいられなかった。
「――だいじょぶですって。あいつがきっちり、面倒見てますから」
「え?」
唐突なイマドの言葉に訊き返す。
だが説明してもらう前に、意味に気が付いた。
「それなら、いいんだが」
もっともイマドの言うとおり、心配はないのかもしれない。あれでルーフェイアは、小さい子の面倒を見るのは上手だ。
それからふと、不安になる。
「――読んだのか?」
「あ、すいません。気に障ったんなら謝ります。
けど俺、その辺の人の会話が聞こえる感じで、漠然と聞こえちまうことあって……」
「いや、いい」
わざとやったのでなければ、私も追及するつもりはなかった。
聞こうとしなくても、聞こえてしまうことがある。それと同じレベルなのだろう。
それに今回は彼のこの能力?に、だいぶ助けられている。もし早い時点で外と連絡が取れていなければ、人質の子供たちは、かなり危険な状態に追い込まれたはずだ。
またちらりと、時計に目をやる。
早くその時間になって欲しいのか、それとももっと時間が欲しいのか、自分でも分からなかった。
ともかく今のうちにと、髪を結い上げる。
「ここの病棟の人と、顔を繋いだほうがいいな……」
長丁場にならないことは分かっているが、まったく面識がないのも問題だ。
「呼びます?」
「ああ」
私の答えに、後輩が呼び鈴を押した
「どうしました?」
ベッドに据え付けられた、院内用の通話石から、応答がある。
「すみません、誰か応援を」
「……え? あ、8号室ね、分かりました」
少しして、中年の看護士が入ってきた。ここの責任者のようだ。
「お呼びして、すみません。私たちが出て行くより……問題がなさそうな、気がしたので」
「大丈夫、分かってますよ」
芯が強そうな物言い。だが見かけは小柄で少し太めで、子供たちに好かれそうな人だった。
私が何か言うより早く、この人が再び口を開く。
「子ども達、どうなってます?」
「いえ、それは……」
間違いなく今いちばん心配な事なのだが、私も正確に答えることは出来ない。
それでも分かる範囲で、特にルーフェイアのことを教えると、この人がほっとした表情になった。
「さすがにシエラの方は、すごいですねぇ。あんな小さい子まで、犯人と対等に渡り合うんですから。
おかげであの子たちに、食べ物が渡せて良かったですよ」
「あ、はい……」
同じ学院生でも、ルーフェイアは間違いなく例外なのだが、それを説明しても分からないだろう。