Episode:100
見張りの居る廊下を無言で歩き、隣の病棟の、ナースステーション近くの病室へ案内される。
「いちおう、頼んでここを確保したんだけど……どうかしら? 職員の控え室のほうがいい?」
問われて私は考え込んだ。
距離的なことを考えれば、ナースステーションに隣接しているという、控え室のほうがいいだろう。
だがたしか、そこは大勢の職員が避難しているはずだ。だとするとかえって、いろいろやりづらい可能性もある。
「そこは……いま何人くらい、いるんです?」
「そうねぇ、あたしの病棟じゃないから分からないけど……たぶん10人以上じゃないかしら。
うちのほうじゃ若い助手の先生、座れないって愚痴ってたっけ」
どうやら、かなり狭いようだ。
「そこって、外見えます?」
イマドが横から、妙な質問をする。
「外? 見えるわけないでしょ。外が見えるのは病室だけ。ナースステーションも控え室も、仮に窓があったって、見えるのは廊下だけよ」
何を当たり前のことを、そんな調子で主任が答えた。じっさいここは、そういった施設は病室に挟まれて中州のようになっているから、窓がないのは見れば分かる話だ。
けれどイマドの思惑は違ったようで、さらに問いかけてきた。
「ンじゃなくて、その控え室から、ナースステーションって見えます?」
「え? あぁ、そういう意味だったの? 見えないわね。ドアに窓なんてないし、危ないから閉めちゃってるし」
「そですか……」
やり取りを聞いて、ここのほうが良さそうだと思う。
ここは病室だから、ドアを開けておける。そうすれば程近いナースステーションの内部は、いつでも確認可能だ。
「えっと、それで、移る?」
「いえ、ここで」
控え室からドアを開けて出るのも、ここから職員の格好で突入するのも、大差はないだろう。
だとするなら、様子が事前に分かるほうがいい。
「分かった。
そうしたら……もうこのあと、病棟違うから来られないと思うけど、気をつけて」
「――すみません、ありがとうございます」
主任が背を向けたまま、手だけひらひらと振って、部屋を出て行った。
それを見送って、時間を確認する。
「あと、少しだな……」
「そですね」
部屋の位置はちょうどナースステーションの目の前で、位置によっては開けたままのドアから、犯人たちの様子が良く見えた。
ただ同時にこれは、私たちの様子も向こうから丸見えということだから、迂闊な話や動きは出来ない。
「俺、白衣脱いで患者のフリしましょっか?」
「すまない、そうしてくれるか?」
小声で言ってきた後輩に、頼む。
私も着替えればいいのだろうが、この緊迫した状況で、何度も着替えているわけにはいかない。
白衣を脱いで私服になった後輩が、ベッドの上に上がりこみ、「患者とそれを看ている看護士」の構図にする。