Episode:10
「ルーフェイア、泣くの一時停止な。メシ食いに行けねぇから」
「う、うん」
急いで涙をふく。
いつも「お腹がすいた」と言ってるイマドを待たせるのは、いくらなんでもできなかった。
「シルファ先輩、どっかお勧めのとこありません?」
「そう言われても……」
話を振られたシルファ先輩が考えこむ。
「先日新しい店がオープンしたとか、言っていませんでしたか?」
「だが、あそこはけっこう高いし……」
どうやらそのお店というのは、それなりに高級なところのようだった。
「あの、でしたらあたしが、お支払いしても……」
何を考えてるのか知らないけれど、あたしの口座には毎月母さんが、かなりの額を振りこんでいる。
――使い道、ないのに。
服は学院の制服で大半は用が足りるし、学用品はたいした金額にはならない。
あとはせいぜいケンディクへ出た時に使うくらいだから、けっきょくお金は貯まる一方だった。
「支払うって、4人分をか?」
なぜかシルファ先輩が慌てる。
「この様子ですと、いつもミルドレッドたちに、支払わされているのでしょうね」
「え、でもみんなが、お金がある人が……払えばいいって……」
ケンディクに自宅があるミルはともかく、シーモアやナティエスは学院からの支給だけだから、外食のお金まで毎回払っていたらとても持たない。
「まったく。人の言うことを疑わないのも、ここまで来ると困ったものですね」
けどタシュア先輩の言い方だと、とても悪いことをしてしまったみたいだった。
「あの、あたし何か悪いこと……?」
心配になって尋ねる。
イマドとシルファ先輩とが顔を見合わせた。
「まるっきり悪い……とは言わないだろうが……」
「っつーか、あの連中に見事に言いくるめられたような……」
2人は理由が分かっているみたいだけど、あたしにはさっぱりわからない。
「ねぇ、何が悪いの……?」
「えーと、どう説明すりゃ……って、後じゃダメか? 話が込み入っちまうし、腹減ったし」
「あ、ごめん!」
なんの話をしていたのか思い出して、あたしは謝った。
これじゃいつまで経ってもお昼にならない。
「まぁどちらにしても、ルーフェイアが払わされる気もしますがね。
――ともかく今日は私が出します。後輩に払わせるわけにはいきません」
「え、でも、大丈夫なんですか?」
シルファ先輩が躊躇うようなところで4人分も支払ったら、かなりの金額になるんじゃないだろうか?
と、タシュア先輩があたしに視線を向けた。
思わずすくみ上がる。
「出来ないことを私は言いませんよ」
「でも……」
確かに先輩は嘘は言わないけれど、高額になった場合が心配だ。
けどそんなあたしへ、シルファ先輩が言葉をかけた。
「ルーフェイア、私もタシュアも上級だから、ちゃんと学院から給料をもらっているんだ。
だから心配しなくていい」
「あ……」
初めて思い出す。
「その顔だと、完全に忘れていたようですね」
「す、すみませんっ」
見透かされたような言葉に、またあたしは小さくなった。
泣きたくなる。
「――早くその店に行きません?」
「――そうだな」
イマドとシルファ先輩とがそう言って歩き出して、あたしも慌てて後についていった。